草庵を支配する者
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分からない威圧感は。
「茶室に殺生の道具を持ち込む貴方がたの作法は、いかようなものか、と」
―――言葉もない。恥じ入るように刺客が俯いた。
「…さあ、殺」「そちらのお武家様、茶碗をお取りなさい」
えっ、俺!?で、でも刀から手を放したら俺は。
「濃茶でも召して落ち着きなされ。こちらの方は、問題ございません」
刺客の喉が大きく動いた。奴の動きは茶人の匕首で封じられているのであった。…テンパり過ぎてこんな事にも思い至らないとは。確かに俺は落ち着く必要がある。俺は刀から手を放し、作法など良く知らないが、慌てて2回程茶碗を回して濃茶に口をつけた。
「次は、貴方です」
匕首が不意に離れた。刺客は憑き物が落ちたような顔で刀を放し、茶碗を取ると、見事な作法で茶を啜った。
「――結構な、お点前で」
茶人は小さく頭を下げると、茶道具を片付け始めた。
「妙、だな」
思わず口をついて出た。
「四畳半での打ち合いを想定して短めの刀身を選んだのだが…」
「俺もだ。それにいくら何でも抜けな過ぎだろう。何で出来ているのだこの壁は」
茶人の方が上下に細かく震えた。……あ、笑っているぞこの野郎!!
「畳を、よく見て御覧なさい」
畳を…?畳が一体、どうしたというのか…?
「……あっ」
刺客が小さく声を上げた。
「何か気が付いたのか」
「小さいぞこの畳!」
「何だと!?」
くそう、すっかり騙された!四畳半のつもりで振り回した刀が引っかかる訳だ。俺たちの、武人としての中途半端な場慣れが仇なした訳か。
「決まりなので使っておりましたが、四畳半も要らぬと、常々」
「貴様…小さめの庵を作る為にわざわざ…!?」
なんだ、こいつは。只の変人か…?
「壁土は、粘性の高い土に磁鉄鉱の粉末を混ぜ込んであります…云わば、柔らかな磁石」
なっ…なんちゅうことを!!くそ、磁石にめり込めば刀は抜けない訳だ。…こいつ、何という嫌な奴だ。
茶人は器用にいざり、匕首を懐に仕舞い直して静かに炉の前を陣取った。
「織田、今川両家の緊張は、日増しに高まりつつありましょう。貴方がどなたのご命令で、茶会を穢そうとしたのかは分かりかねますし、私の預かり知らぬことでございますが…口火を切るのが私の草庵…というのは御免被りたい」
「ぐむ……な、生意気な!貴様、商人であろう!武士にそ、そのような口の利き方を!!」
「…お武家様なら、分かりましょう?」
吼える刺客を前に姿勢を微塵も崩すことなく、茶人は片頬を吊り上げた。
「敵の本丸に丸腰で乗り込む、そのような行為の愚を」
「ぐっ…」
刀を奪われ、落ち着けと云われ濃茶を呑まされ、確かに今日の俺たちに武士の面目はない。茶人は、巨躯を少しだけ曲げて先ほど置いた扇子をつまんだ。そして、にぃ
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