草庵を支配する者
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や、まぁ…今川の手の者…?」
「あ、やっぱり?…どうも、遠路はるばる…」
「…お気遣い、どうも…」
―――しまった。余計に間抜けな空間になってしまった。
「……こちらの方は、食事が薄味ですね……」
馬鹿やめろよプライベートな話とか!もっと間抜けな空間になるわ!
「……ああ、俺はもう少し濃い味が好きなんだがな……酒に合わんし……」
ああああ助けて何だよこの状況。何だか嫌な汗がじわじわ出て来た。
―――その時、茶道口に人影が見えた。
すらり、と襖が滑る音がして、この茶会の主人が顔を覗かせた。
「…お待たせいたしまして」
ぬぅ、と巨躯の茶人が襖の隙間を割るように滑り込んできた。茶人は音も立てず茶室に這入り込むと、後ろ手に音もなく襖を閉めた。…そして、くいと顔を上げた。
座った眼…いや、どっしりと座った眼というのが正しいだろう。下がった口角は間抜けな印象すらあるが、きちんと引き結ばれている。彼は手にした扇子をすっと膝の近くに置くと、指を軽くついて一礼する。
間抜けな姿で膠着している俺たちは、ただ会釈を返すのが精いっぱいだった。
茶人は膝を器用に使って炉の前にいざり寄ると、簡素な竹の茶匙を手に取り、抹茶を2〜3匙、黒い茶碗に落とした。そして使い古された風情の柄杓で湯を汲み上げ、茶碗に注ぐと、慣れた手つきで茶筅を動かし始めた。
―――おい。
「貴様、この状況の俺たちを完全無視か!!」
「そ、そうだ!呑気に茶など立ておって、叩き切るぞ!!」
茶人はちらりと俺たちを一瞥しただけで、引き続き茶を立て続けた。…くそ、何だこいつは。匕首さえ忍ばせていれば……茶室を染め上げる蘇芳の紅、蒸気をあげて転がる熱い茶壺、炉を跨ぐようにして転がる物言わぬ屍、そして傍らに立ち、刀身を拭う俺。『ひっ…ひいぃ!!』と腰を抜かす茶人をちらりと一瞥し『そこな刺客を片付けぃ』と言い捨て、悠々と席を立つ俺……いざり口に入り込む前の俺はそんな妄想を巡らせていた。
…それが何だこの間抜けな状況は。
壁に武士の命でもある刀をめり込ませ、振りかぶった姿勢のまま目の前で普通に茶を立てられるこの屈辱たるや。
やがて、茶筅の動きが止まった。
「……ちょっと待て、貴様はどこの手の者だ!!」
刺客が不意に叫んだ。
「俺の地元は茶の産地、作法位は心得ている!最初は薄茶と茶菓子だろうが!!…それをいきなり濃茶を突き付けるとは、貴様茶人ではないな!?」
刺客の言葉が終わるや否や、茶人は懐からすらりと匕首を抜き、ぴたりと刺客の喉元に充てた。
「ひっ……」
「作法のことを仰るのであれば」
茶人が口を開いた。四畳半を丁度良く満たす声量、そしてゆっくりと、噛みしめるように紡ぎ出す言葉。…何だ、この訳の
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