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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 23
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を降りるなり十分以上も抱き合ってたんですよ。お帰りなさい、ただいまって……すっごく嬉しそうに。想像できます? 普段は起伏に乏しいあの子の表情が、可憐に咲く花みたいにふんわり綻ぶんですよ。あの場面で傍に居たら、貰い泣きは避けられません」
 「お互いを大切にしているのですね」
 「それはもう。呆れたお父さんの漁師仲間が、その日の仕事を全部取り上げちゃうくらいベタ甘です。ベタベタの甘々、なんです」
 ふふ……と笑い細めた目元から、水滴が一粒。頬を滑ってアーレストのシャツに零れ落ちた。
 「ねぇ、神父様」
 「……はい」
 「貴方がシャムロックに何らかの問題を指摘してるのは解りました。でもそれって、関係無い人間を巻き込む必要があったんですか? ただただ父親の帰りを待っていただけの年端も行かない子供を、あんな風に怯えさせたり傷付けたりしても見逃されるほどの事なんですか……? 私が其処まで重大な罪を犯してるのに全然気付いてないって言うなら、どうして……どうして私自身に直接教えてくれなかったんですか! そうしてくれていたら、アルフィンは……!」
 アーレストの輪郭が滲んで波打つ。
 細い腕に血を流していた少女を思うと、胸の奥がズキズキ痛んで涙が止まらない。
 けれど。アーレストの返事を聞いた瞬間、息が詰まった。
 「何故、貴女に罪を証明しなかったのか? はっきり言って「無駄だから」ですよ。目先の安寧に囚われた思い込みの激しい貴女が、会って数日しか経ってない私の忠告を真に受けて怪盗を辞めていたとは考えられませんし。そもそもこれは、貴女が行動を起こす前に自身の目で看取しなければいけなかった「ごく当たり前の事」なのです。いつかこんな日が来るかも知れないと予測すらしてなかった時点で、貴女は愚かだとしか言いようがない。それでも私は、貴女と初めて対面した時からずっと、自力で気付き更生する機会を与えてきました。多少予想外な展開があって誤魔化した部分はありますが、判りやすい手掛かりも混ぜていた筈です。今の今まで目を逸らし続けてきたのは、他ならぬ貴女自身の意思だ。一人で願い、一人で決断し、一人で始めた事で不都合が生じた途端、巻き込まれた他者の言動を問う。……身勝手だとは思いませんか?」
 「……!」
 「貴女は自立心が強い反面、子供としての甘えが抜け切っていません。感謝を謳いつつ周りに居る人の心は解さず信じず見ようとしてない、独り善がりも甚だしい子供。故に、自身の行動が周りにどんな影響を与えているのか、感じ取れもしない。……よくお聞きなさい、シャムロック。アルフィンさんは無関係ではありません。真実、貴女達の行いが生み出した『被害者』なのですよ」
 「! そ……っ」
 経緯はいまいち腑に落ちないが、シャムロックを狙って拉致されたアルフィンはまさしく『シャムロックの
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