第三十二話 あちこち回ってその十三
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「頭の天辺見られるわよ」
「僕からも見えますよ」
「だから」
この言葉が余計です。
「私はね、見られるのが嫌なのよ」
「けれどそんなの特に気にする必要ないじゃないですか」
「背の高い子にはわからないのよ」
これだけは。どうして私がここまで気にするのか阿波野君にわかる筈もないことですけれど。
「全く。ある子にはない子のことがわからないのよ」
「ないからこそわかるってことですか」
「そうよ。わかってるじゃない」
わかっていて言うのですから余計に悪質ですけれど。
「とにかくね。背だけは」
「わかりましたよ。それじゃあ先輩」
「何よ」
「とにかく休みません?」
「休むって?」
「さっきからずっと歩きっぱなしですよ」
こう私にまた言ってきました。
「もう足が棒みたいになっちゃって」18
「あっ、そうなの」
そういえば私もです。言われてみれば、です。
「そうね。だったら」
「何処かでお茶でも飲んでですね」
「ちょっと待って」
ここでまた気付きました。お茶といっても。
「阿波野君と二人で?」
「まあそうなりますよね」
「まあそうなりますよねじゃなくて」
またしても何を言わんやの展開です。
「そんなの駄目に決まってるじゃない」
「駄目ですか?」
「駄目よ」
何かこんな展開ばかりです。
「男の子と一緒にお茶なんて」
「別に今時それ位は」
「いいっていうのね」
「同じ奥華の先輩後輩ってことで」
実に自分自身に都合のいいことを言ってきました。ここでもまた。
「それでいいじゃないですか」
「奥華の、ね」
「はい、奥華の」
話すその顔がやけににこにこしています。もう楽しくて仕方がないといった感じで。
「それならいいですよね。別に」
「そうね」
顔を少しむっとさせて阿波野君に返しました。
「まあそれならね」
「それじゃあですね」
「何処に行くの?」
「ほら、あそこの」
すぐ近くにあったお店を指差してきました。
「お団子とお茶でも食べて飲みながら」
「ええ、わかったわ」
とりあえず休憩となりました。二人で和風の如何にも時代劇に出て来るみたいな外の椅子に並んで座ってお茶とお団子を頼みました。阿波野君は早速そのお団子を食べながら私に言ってきます。
「何かここって」
「どうしたの?」
「ほら、あれですけれど」
私達から見て左手にある建物を指差します。見ればそれは芝居小屋でした。
「何か随分凝ってますよね」
「男の人が女装してる絵があるわね」
見れば額に傷があってそれで胡坐をかいている男の人の絵があります。後は五右衛門みたいな髪の人とか赤穂浪士とか。赤穂浪士は私にもわかりました。
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