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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十六話 凶刃
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ムの苦味が口に広がる……。
帝国暦 487年9月 29日 オーディン 憲兵本部 ギュンター・キスリング
目の前のTV電話が鳴った。着信番号は宇宙艦隊司令部司令長官室の隣にある応接室を示している。受信するとエーリッヒが映った。敬礼すると
「五分後に連絡が欲しい」
と言って切れた。
TV電話をかけてきながら、五分後に連絡が欲しい。内密に話がしたい、邪魔が入らないところからかけて欲しいということだ。席を立ち、奥の小部屋に行く。憲兵隊にはこの手の部屋が幾つかある、機密保持のために……。
TV電話でエーリッヒを呼び出すと直ぐに出た。
「ああ、待っていたよ、ギュンター」
「エーリッヒ、何が有った?」
エーリッヒはちょっと顔を顰めると困ったような口調で話しかけてきた。
「アントンが動いた」
「……」
「昨日の夜、ゼーアドラー(海鷲)でアントンがオーベルシュタイン准将に接触した」
「オーベルシュタインか……、副司令長官の参謀だな」
エーリッヒは一つ頷くとマントを少しいじりながら話した。
「切れる男だ。ローエングラム伯の信頼も厚い」
「良く分かったな。誰か見ていたのか?」
「ロイエンタール、ミッターマイヤーの二人が見ていた。カウンターで飲む二人をね……。短い時間だったらしい。わざと見せた、そんなところだろうね」
そう言うとエーリッヒは苦笑した。
「なるほど」
こちらも苦笑した。アントンらしい、上手い所をついてきた。ゼーアドラー(海鷲)でカウンターか、オーベルシュタインの偶然隣に座った、言い訳はいくらでも出来るだろう。それにしても、オーベルシュタインか……。
「エーリッヒ、アントンの狙いは何だと思う?」
「そうだね、狙いは四つ有ると思う。一つはローエングラム伯がブラウンシュバイク公と通じていると疑わせる。それによって宇宙艦隊に疑心暗鬼の種を撒く、そんなところかな」
「……」
「次はローエングラム伯を自分たちに寝返らせる事だ。内乱になれば軍を指揮する人間が要る、彼を寝返らせれば、こちらの力を弱め、有能な指揮官を得られるだろう」
「三つ目は何かな」
「私を暗殺してその罪をローエングラム伯にかぶせる」
「では最後は」
「追い詰められたローエングラム伯が私を暗殺する。究極はこれだろうね、自分の手は汚さずに邪魔者を二人始末できる」
うんざりした口調でエーリッヒは四つ目を話した。彼の気持ちは分かる。今の宇宙艦隊は実力で見れば過去最高と言っていいだろう。だがその中で唯一の弱点がローエングラム伯だ。
元々伯は宇宙艦隊司令長官としてエーリッヒの上官だった。それが降格されて副司令長官になった。誰が見ても伯に不満が無いとは思えない。伯が弱点だと分かっているだけに、そこ
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