六十一話:神
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論する。
「神様なら人を救うべきだ! 人を傷つける神様なんておかしいよ」
「いいや、何もおかしいことはないよ、エリオ・モンディアル」
子供らしい神様という存在は人を救うべきだという考え。スカリエッティは実に楽しそうにその考えを馬鹿にすることも、笑うこともなく、諭すように語りだす。
「いいかね。文字を持たぬ民族があっても神を持たぬ民族はいない。それは人という存在が本質的に弱いからだ。人はその弱さ故に神に縋り日々の安寧を願う。だが、神という存在は何も安らぎを与えるだけではない」
まるで教師が子供達に授業を行うかのようにゆっくりと丁寧に語っていくスカリエッティ。その様子からは彼が人間と神という存在に並々ならぬ想いを抱いていることを感じさせた。
「神々は自然や動物がモチーフとされることがほとんどだ。今でこそ人間は自然を破壊し、動物を支配下に置くことができるようになった。しかし、太古の昔はそれらは恵みの象徴と同時に災厄の象徴でもあった」
人々に水を与える川は時として氾濫し人を飲み込む。今では飼育されているが豚は森にいれば猪となり狩人の命を奪うこともある。世界に名高い英雄ですらそれらに叶わず命を落とした伝承など幾らでもある。人はその恐怖を遺伝子に刻み込んできた。
「メリット、デメリットは表裏一体。故に神は恵みと共に罰を人に与えねばならない。他ならぬ人間が神にそう望んだのだからね」
罪を犯した人間は自らが罰せられることを願う。それが真っ当な道徳性を持ち合わせている人であればあるほどにその傾向が表れる。自らを戒めの鎖で縛り孤独な牢に入る。それだけで償っていると錯覚し本当の償いを忘れ己を最悩む苦悩から逃げられる。そんな弱さを併せ持つ人間だからこそ、神に望むのだ。
「私は人間を愛している。だからこそ神となり―――人に災厄を施さねばならないのだよ」
―――私に罰を与えてくださいと。
「そんな…そんなこと……誰も望んでいない!」
信じたくなどない言葉にエリオは叫び返す。だが、スカリエッティにとってはそんな叫びさえも愉悦となる。人が苦悩する様は美しい。それだけ生きることに真剣なのだから、当然だ。
「本当にそうかね? 君は今まで傷つけてしまった人に謝りたいと思ったことはないのかね?」
「そ、それは……」
「人の優しさを知るたびに暴走して傷つけた者への罪悪感で心が痛まないかね。例えば、母とも呼べる女性に対してなど」
反射的にフェイトの方に目を向けてしまうエリオ。親に見捨てられ絶望していた自分は感情に任せ彼女を傷つけてしまった。そのことは既に謝ったことがある。母は優しいから笑って気にしていないと言ってくれた。だが、その時に自分は―――罰してくれることを望まなかったのか。
「
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