109部分:第百八話
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第百八話
第百八話 声
謎の声は語る。力を貸そうと。
「その薬草、お運びしましょうか」
「何で急にまたそんなことを」
「困っている方を放ってはおけませんので」
声はまた語る。
「それで宜しいでしょうか」
「見返りとか要求されてもないよ」
「ははは、御心配なく」
イーの言葉に笑う。
「そのようなものは要求しませんよ」
「つまり完全な善意ってこと?」
「はい」
声は答えた。
「あらためてそれで宜しいでしょうか」
「わかったよ。それじゃあお願いするよ」
二匹はそれを聞いて頷くことにした。
「僕達だけじゃどうしようもないから」
「お願いします」
「わかりました。それでは」
声が答えると薬草の束がふわりと浮き上がった。
「ではこれはそちらのお家まで運ばせて頂きますね」
「うん、お願いするよ」
こうして話はまとまった。声の謎の主は無事春奈の家にまで薬草を届けた。ここに一つ秘密があった。
「他言は無用ですよ」
声の主は最後にそう付け加えた。そういうわけで彼等の手柄になったのである。
春奈には褒められ、そして春奈にもいいことであった。だが二匹はどうしてもわからないことがあった。
「あの声の主さ」
「うん」
水槽の中で話をしている。
「何者だったんだろうね」
「只者じゃないのはわかるけれどね」
それだけははっきりとわかった。
「けれど。何で僕達の家の場所まで知ってたのかな」
「それもあるしね。すっごく怪しいよね」
「もしかするとだよ」
リャンは言った。
「紫の魔女の手の者だったりして」
「ははは、まさか」
だがイーはそれを信じようとはしなかった。
「それだったら何で僕達を助けるんだよ」
「そうか」
「そうそう。それだけは絶対にないって」
二匹はそんな話をしていた。だがそれを遠くから聞く三つの影があった。
「上手くいったわね」
「はい」
三つの影は夜の闇の中にいた。その中で一つの影が二匹の話を魔法で聴いていた。
「これでよし。あとは」
「いよいよですね」
「ええ」
その影の中央は少女のものであった。少女の影は大きく頷いた。
「決めるわ」
「はい」
影達は夜の中に消えた。その後には紫の空が広がっていた。
第百八話 完
2006・4・18
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