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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十五話 苦悶
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の間、伯爵夫人と元帥は見詰めあった。先に視線をそらしたのは伯爵夫人だった。

「そうですか……。ヴァレンシュタイン元帥、これからも弟の事を宜しくお願いします」
伯爵夫人はそう言うと頭を下げた。

もしかすると伯爵夫人は元帥とローエングラム伯の関係を心配しているのかもしれない。かつては伯は元帥の上官だった。それが今は逆転している。ローエングラム伯の心境はどうだろう、決して穏やかなものではないだろう。

実際、元帥と伯の間には微妙に緊張感がある。元帥は他の人には緊張感を表さない。最年長のメルカッツ提督に対しても敬意は表しても緊張感を表す事は無い。しかし、伯に対しては微かにそれが出る。

気になるのは伯とその周辺が周りに対して打ち解けない事だ。元帥に対してだけでなく、他の艦隊司令官とも微妙に壁があるように思える。

そのことが艦隊司令官達を余計に元帥に近づかせている。ローエングラム伯はその事に気付いているだろうか。伯は能力は高く評価されても、人としては信頼をかち得ていない……。

しばらくの間、元帥と男爵夫人の会話が続いた。元帥の両親の事だった。主として元帥が尋ね、男爵夫人が答える。そして私と伯爵夫人は黙って聞いている。静かな時間だった……。


帝国暦 487年9月 23日   オーディン ヴェストパーレ男爵夫人邸 マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ 


ヴァレンシュタイン元帥が帰り、ラインハルトとジークフリードがやってきた。本当は一緒にお茶をという話もあったのだが、アンネローゼが別々にと頼んだ。おそらくラインハルトが皇帝に反感を持っている事を考慮したのだろう。

「ラインハルト、ジーク、いらっしゃい、昇進おめでとう。ジーク、とうとう閣下と呼ばれるようになったのね」
「有難うございます。男爵夫人」

どういうことだろう、二人とも余り嬉しそうではない。それに何処と無く鬱屈しているように見えるのは気のせいだろうか。
「どうしたのかしら。余り嬉しそうではなさそうね」

「そんなことはありません」
「本当に?」
「本当です」

ラインハルトが答えるが、表情が硬い。ジークの表情も同じように硬くなっている。どう見ても嘘だ。何かを隠している。一体何が有ったのだろう。思わずアンネローゼと顔を見合わせた。彼女も困ったような表情をしている。

沈黙が落ちた。私もアンネローゼもどう話しかけて良いかわからず沈黙している。ラインハルトとジークも黙ったままコーヒーを飲んでいる。こんなことは初めてだ。

「私は、頂点に立ちたいんです」
「……」
ポツンとラインハルトが呟いた。思わず私はアンネローゼと顔を見合わせた。アンネローゼの顔には辛そうな色がある。

「でも、私の前にはいつもあの男が居る、あの男が……」

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