106部分:第百五話
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第百五話
第百五話 雨
「うわっ!」
「やっぱり」
雨が降ってきた。それが美樹達に降り注ぐ。
「お姉ちゃん、急ごう」
「急ぐ必要はないわよ」
けれど美樹は冷静であった。
「何で?」
「忘れたの?私は魔女よ」
にこりと笑ってこう言った。
「ここは任せて」
「どんな魔法を使うの?」
「そこの木の葉っぱを使ってね」
側にあった木を指差す。そこから葉っぱを二枚持って来た。魔法で取り寄せたのである。
「傘を作るのよ」
「傘を」
「ええ、こうやって」
その葉っぱに魔法をかける。そしてそれを大きくさせた。
「これでどうかしら」
「何か凄く大きいね」
見れば身体全体が隠れるまでの葉になっている。それを傘に使おうというのだ。
「これを傘に使えばいいわよね」
「うん」
信也は姉の言葉に頷いた。
「それじゃあ悪いけれど僕にも一つ頂戴」
「勿論よ」
美樹はそれに応えた。
「はい、どうぞ」
「有り難う」
信也はそれを受け取った。彼は姉から受け取ったそれを傘に使った。
「じゃあ行きましょう」
「うん」
二人はそれで雨を防ぎ先に進んだ。そして無事に駅まで辿り着いたのであった。
「何かお姉ちゃんにずっと助けられてばかりだよね」
「そうかしら」
美樹は電車の中で信也にそう言われてキョトンとした顔になった。二人は向かい合って座っている。ファルケンとビルガーは美樹の鞄の中に隠れている。
「サンドイッチも作ってもらったし。雨だって」
「けれど私は別に大したことはしていないわよ」
「僕にとっては大したことだよ」
けれど信也はこう返した。
「こんなことしてもらえるなんて。夢みたいだよ」
「夢じゃないのよ」
けれど美樹はそんな信也に対してまた言った。
「私達姉弟でしょ」
「うん」
「だったらこれも当然よ。姉弟なんだから」
「そうなんだ」
「そうよ。だから私は大したことはしていないのよ。当然のことだから」
「じゃあ僕もいつかその当然のことをするよ」
信也は強い声で言った。
「見ていてね、お姉ちゃん」
彼は言った。
「大きくなったらきっとお姉ちゃんを守るようになるから」
「ええ、御願いね」
美樹はにこりと笑った。姉と弟の小さな、楽しいピクニックであった。
第百五話 完
2006・4・11
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