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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十四話 アントン・フェルナー
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で皇位継承に差しさわりがあるという意見が周囲の貴族から出たとき白紙撤回された。
愚かな話だ。生まれた子は宇宙艦隊司令長官、帝国元帥を父に持つのだ。エーリッヒの一声で十万隻以上の精鋭が動く。その実力の前につまらない血統など何の意味を持つというのか。
彼ら貴族の本心はわかっている。エリザベートを女帝にし、その夫君の座を狙う事だ。エーリッヒは競争相手として強すぎるのだ。それが気に入らないのだろう。
俺はその当時フェザーンに居たので関われなかった。もし、オーディンにいたら何が何でも実現に動いただろう。十年余裕だなど有り得ない。エーリッヒはそれほど甘い相手じゃない。
ブラウンシュバイク公もアンスバッハ、シュトライト准将もそれは理解していた。しかし、貴族達の反対に押し切られてしまった。おかげで今苦労している。
貴族を暴発させることがエーリッヒの狙いと見ていい。こちらはそれを防ぐために努力しつつ、万一のために準備を整えるのだが、至難の業といっていいだろう。日々、神経をすり減らしつつ生きている。
「ブラウンシュバイク公、もしエーリッヒが陛下の隠し子なら如何します?」
「そうだな、銃を突き付けてでも皇太子にする。そしてエリザベートと結婚させる」
「ならば、やりますか?」
「? 何のことだ、フェルナー」
「ですから、エーリッヒを本当に皇太子にするのです」
公とアンスバッハ准将が凄い眼でこちらを睨んできた。
「本気で言っているのか、フェルナー」
「本気です。女帝夫君になるか、皇帝になるか、さほど違いは有りますまい」
しばらく沈黙が落ちた。公もアンスバッハ准将も考え込んでいる。エーリッヒを皇太子に仕立て上げる。その上で、エリザベートを妃にする。エーリッヒが皇太子になれば皇位継承の争いなど吹っ飛んでしまう。
エーリッヒには貴族の後ろ盾は無い。しかし、軍が後ろ盾につく。宇宙艦隊十万隻が後ろ盾になるのだ。
「無理だ。ヴァレンシュタインの両親ははっきりしている。危険すぎるだろう」
ブラウンシュバイク公が首を振りつつ答えた。
「噂を流すだけでも意味があります」
「どういうことだ、フェルナー」
ブラウンシュバイク公が問いかけてきた。アンスバッハ准将は先程から何か考え込んでいる。どうした? 気になることでも有るのか?
「先程のヒルデスハイム伯のように、頭に血の上った方でも疑いだせば、少しは落ち着くでしょう」
「なるほど、周りを落ち着かせるか。確かに意味は有るな」
「ブラウンシュバイク公」
「なんだ、アンスバッハ」
「元帥の両親ははっきりしています。しかし、母方の祖父が特定できませんでした」
蒼白な顔でアンスバッハ准将が答えた。その答えが部屋を痛いほどの静寂で包む。
「本当か」
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