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小才子アルフ〜悪魔のようなあいつの一生〜
幕間 悪魔のお仕事
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え、見事だよまったく!あっちじゃ近寄るのも恐ろしい黒鷲の女王様がこっちじゃこうも変わるかね!家庭の幸福ってやつは一ポンドありゃ世界の半分を平和にできるって噂は本当みたいだねぇ、面白い面白い!それじゃあもう一人、いや二人三人四人幸せにしてやるとすっかねぇ、一人殺して二人不幸にしてやったのと合わせて二十人!あの坊やも楽ができなくなるってわけだ!んはははははは、面白い!』
 従者に化けた愉快な僕たちの呆れるとも咎めるともつかぬ視線に手をひらひらさせて了解の意志を示すと、ヴィクトール──アルフレット・フォン・グリルパルツァーをこの舞台に突き落としたこの男は物語の黒幕であるのか、単なる貴族趣味の古い羽根ペンにすぎぬのか──はどの人形を使うかしばし考え込んだ。
 「一人、おらぬこともありませぬ」
 「誰ぞ。申してみよ。ゆくゆくは真鍮の拍車を与えるほどの者であれば、平民でも構わぬ」
 「『銀の拍車の騎士』の階級にあるパウル・フォン・オーベルシュタインと申す者でございます」
 やがて顔を上げたシュザンナに悪魔の素顔を露わにして高笑いを聞かせる代わりにヴィクトールが医師らしく白く磨き上げた歯と人並みの長さに縮めた舌の奥から送り出した単語は、なかなかの劇薬毒薬と言える人形の姓名であった。
 「使えるかの」
 「少々手を施せば、生涯の忠誠を誓うことでしょう」
 聞き知らぬ名に疑わしげな表情になったシュザンナに、ヴィクトールは即答した。  
 「誰ぞの将来を見てほしいとでも申すなら、叶えて遣わせ。子にかかる金が要るというなら、与えてやるがよい」
 「仰せのままに」
 悪魔の企みなど知る由もないシュザンナにヴィクトールは宮廷医師のやり方ではなく家臣のやり方で頭を下げ、執事から金貨の袋を受け取ると、悪巧みの影すら感じさせぬ声で答えた。
 『お代は見てのお帰りだぜ、義眼さんよぉ』
 もちろん誤解を解くことなどするわけがない。
 パウル・フォン・オーベルシュタインに妻と子を与えて縛るのもいいが、もっと別の贈り物をすればより効果的であることを彼は知っていた。そのためには銀河連邦時代の医学技術が必要であるが、そんなものはすぐに手に入る。悪魔として与えられた権限をもってすれば、世界を覆すほどの大変革は許されぬにせよ多少の悪戯ぐらいはしてのけることができる。失われた技術の一つ二つその辺の廃墟から復活させる程度なら違反にすらならない。復活させた知識を誰かに教えてやることも。
 医者という役を利用して、矯正区に赴く輸送艦に同乗して叛徒の軍医の一人も連れ出し、そいつに組織培養と生体移植の知識を植え付けてしまうことなど眠っていても可能だ。記憶を書き換えるのみならず叛徒の地に持ち去られていた医学書を所持していたことにし、鞄の中にそれを何気なく潜ませておく、などという悪戯ならもう
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