第160話
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と思ったが、それだけまた眠ってしまいあの夢を見るかもしれない。
そう思うと鳥肌が立ち、震えが止まらなかった。
何かしてないと駄目だ、と思った制理は制服に着替えて学校に向う準備をする。
食欲も一向に湧いてこなかった。
退院してから少しも食事をしていないのに、食欲が湧かない。
寮を出て、学校に向かう。
歩くだけでもしんどかったが、あの夢を見るくらいならしんどい方がマシだった。
学校に着くと、さらに顔色が悪くなった事を心配してくれたクラスメイトが声をかけてくれる。
それでも制理は大丈夫だ、としか答えられない。
授業が始まるが教師の言葉など一つも耳に入らない。
四時間目の授業の時だった。
扉が開く音がした、制理は視線を扉に向ける気力すらなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと、後ろから声をかけられた。
「珍しいな、お前が弁当を食べないなん」
声は麻生だった。
それで今日は麻生が病院を退院したのだと分かった。
普段なら学校にやってくる事に対して嫌味の一つでも言うのだが、そんな元気はない。
麻生は制理の顔を見て驚いているが、制理はそれを気にすることなく言う。
「何?」
気怠そうな声で尋ねる。
それでも制理の中ではまだ元気のある声だった。
恋している相手が話しかけてきたのだ。
今の制理の精神状況でも嬉しいと感じたらしい。
だからだろうか。
こんな姿を見られたくないから、少しだけ会話してから教室を出て行こうと思ったのは。
教室を出て、あの夢の事を麻生に話そうかなと思ったが止める。
こんな夢の話をされたところで気分を悪くするだけだ。
階段を下りようと手すりを持った時だった。
グラリ、と視界がぶれたのは。
「あっ・・・」
手すりにもたれるが力が入らない。
そのまま前に倒れていく。
どうしようもない。
今の制理に受け身をとる事すらできない。
このまま流れに身を任せるしかない。
すると、誰かが制理の名前を呼ぶ声が聞こえた。
朦朧とする意識の中その声に聞き覚えがあった。
誰かに抱き締められる感触がする。
きっと恭介だ、制理はそう思った。
彼に抱き締められている。
そう思っただけで何故か制理の心は安心してしまった。
麻生に抱き締められているだけで麻生に守られているそんな錯覚を覚えてしまった。
そのまま制理の意識は闇に落ちて行く。
だが、あの猟犬は出てこなかった。
闇は闇でも心地よい闇だった。
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