20話
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トレーニングを早めに切り上げたということもあって、まだ夕方6時前。部活がまだ終わっていない頃に鬼一とセシリアは食堂にやってきた。案の定、食堂には人がほとんどおらず普段の賑わいは姿を消している。
「流石にこの時間はほとんど人がいませんね」
キョロキョロと視線を左右に彷徨わせながら鬼一は呟く。普段見ない光景だから物珍しそうな表情。
「いつも混んでいるのでかえって落ち着きませんわ」
「まあ、たまにはいいんじゃないですか?」
時にはうるさいほどの賑やかさのある食堂が静けさに包まれているというのは、どうにも違和感を拭えない。鬼一はそれに対して新鮮さを感じており、セシリアは少しの困惑を持っていた。
どこに座ろうか考えているとセシリアの視界の中に1人の知り合いの姿が入ってきた。
「鬼一さん、あの方は……」
「……たっちゃん先輩」
セシリアに教えられて視線を向けるとそこには同室者がいた。これからの展開に頭が痛くなったのか自然と鬼一の声のトーンは下降。唯でさえ疲れている時にその疲労を加速させる存在というのは扱いに困る。
2人で並んで楯無のいるテーブルまで近寄る。
「はーい、鬼一くん。セシリアちゃんも。今日は随分早いのね」
食堂の隅のテーブルに座っていたのは更識 楯無であった。笑ってはいるがその顔色は普段より僅かに曇っている。普段同室である鬼一だから気づいた。
「そういうたっちゃん先輩こそ、いつもは食堂使わないじゃないですか。どうしたんです?」
ここで身体を労わることはできたが楯無はそんなことを望んでいない。だからこそ鬼一は普段のように口を開く。いつものように軽いテンポで。
「ちょっと今日はバタバタしててね。お昼も食べてないのよ。いい加減お腹も空いたから食堂に来ただけだわ。あ、それと鬼一くん。帰り遅くなるから。まだ細々としたのが残ってるのよ」
お昼を食べていない、お腹が空いた、そう言いながらも楯無の食事は胃に受け付けやすいうどんだけである。普段の食事量よりも遥かに少ない。顔色が優れていないということも考えれば、無理やり胃に入れているというのはすぐに気づいた。
「ん、了解です。お風呂は沸かしておきます」
「お願いねー」
鬼一に出来るのは楯無の負担を少しでも減らすことだけであった。自分もかなり疲労が溜まっているがそれを見せようとはしない。鬼一も楯無も人前で意地を貼るくらいの力は残っている。
「……? ちょっとお待ちください。今のお話からですと、お二人は同室のように聞こえるのですが……?」
だが疲労を隠しきることは出来ない。人前だということを理解していたのにも関わらず、自室内でしか行わないやり取りをしてしまった。
「……あっ」
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