第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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はどこにもいない。生者の姿は……。
「こいつは……まさか」
唐突に足を止めた士郎は、燃える家屋の影からよろよろと現れた男に対し、全身に力を込め、身体の状況を戦闘態勢に移行させた。
―――アアァァ……―――
のろのろと歩む男は、ゆっくりと士郎にその焼け爛れた顔を向ける。男が向ける恨みまがしい目は、まるで血を固めたかのように、真紅に染まっていた。生者ならば、気を失うほどの激痛を感じるはずの火傷を負いながらも、全くそれを気にする様子は見受けられない。意志を感じられない目。口から覗く鋭く尖る牙。
これが何なのかは、よく知っている……。
これは……こいつは……。
「食屍鬼」
両手をゆっくりと開き、撃鉄を落す。
「――――投影、開始」
手の平に馴染む、ずっしりとした剣の重みを感じた士郎は、地を蹴り駆け出す。牙を剥き襲い掛《グール》かろうと手を伸ばす食屍鬼の腕を干将で切り飛ばすと、莫耶で倒れ掛かってくる食屍鬼の首を切り落とす。
「これは一体どういう事だ。何故食屍鬼がこんなところに……まさか、いるのかあいつが」
日が落ち、辺りは既に闇に落ちている。しかし、皮肉なことに、村は家屋を燃やす炎に照らされ明かりに困ることはない。手に持つ干将・莫耶から血を垂らしながら、士郎が足元に転がる食屍鬼を見下ろしていると、呻き声を上げながら食屍鬼が集まり出してきた。
「考えてる暇はないか」
憎々しげに顔を顰めた士郎は、干将・莫耶の血を振り払うと、集まってきた食屍鬼に向かって駆け出した。
斬っても斬っても現れる食屍鬼の群れから抜け出した士郎は、肩を激しく上下させながら、まだ火の手が届いていない家屋の壁に寄りかかっていた。火がついてはいないとはいえ、周りは燃え盛る炎に囲まれていることから、背にした壁は燃えるように熱い。しかし、士郎は壁から身体を離すことなく、必死に息を整えている。途切れなく流れる汗を拭いつつ、決して油断することなく周囲の警戒をしていた。
「くそっ、生き残りはいないか」
首を激しく振り、吐き捨てるように声を漏らす。息が整いだすと、士郎は気持ちを切り替える様に息を大きく吐く。壁から背を離し、士郎は村から脱出するため足を動かそうと――
「しろ、お?」
燃え崩れた家屋の影から、小柄な人影が現れた。
こちらに気付いたのか、微かに顔を上げた少女は、何かを求めるように手をのろのろと差し出してくる。
顔を伏せ、ゆっくりと歩いてくるその少女は……
「し、ろお」
黒い髪……日に焼けてい
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