暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
[7/15]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

「……」

 躊躇なく答える士郎に、ユキは寒さではない理由で身体を震わせる。

「なら……こっちを見て」
「え?」
「こちらを向いて」

 嘆願するようなユキの声に、士郎はゆっくりと振り向く。そこには、膝まで川に入ったユキが、生まれたままの姿で立っていた。青ざめた月から降り注ぐ、冴々とした月光に照らさたユキは、目を逸らすことが出来ないほどに美しかった。

「綺麗だ」
「っ……嘘でも……嬉しい」
「嘘じゃない」
「ぁ」

 川に入り、水を掻き分けながら近づく士郎を、ユキは縋るような目で見上げてくる。士郎はそんなユキを、壊れ物でも扱うように優しく抱きしめた。

「ユキは綺麗だ」
「シロウ」

 士郎の胸に飛び込んだユキは、離れたくないとばかりの強さで、士郎の身体に手を回す。士郎もそれに応えるように、ユキの白い肌の上に手を回す。

「……幻滅した?」
「いいや」
「……借金があるの」
「借金?」

 士郎の胸に顔を押し付けたまま、ユキは独白を始めた。

「私が昔、病気になった時に使用した薬代と、マモルの足の治療代……」
「薬代と治療代? 村の者にか?」
「違う……たまに村に来る医者……」
「そいつに?」
「そう……あの仕事も、その医者に……。家族がいない私達には、頼れる人なんて誰も……」
「……そう……か」

 それ以降黙り込んでしまったユキの身体を、士郎は力を込め一度強く抱きしめる。一瞬だが、苦しいほどの力で抱きしめられたユキは、戸惑いを浮かべた顔で士郎を見上げると、強い意思を感じさせる士郎の目とぶつかった。

「シロ、ウ?」
「日本に来るか」
「え?」
「マモルと一緒に日本に来るか」
「え?」

 士郎の言っている意味が分からず、ユキはただ疑問の声を上げるだけだ。目を大きく見開き、まじまじと士郎を見上げるユキの頬を、士郎は優しく撫でる。

「日本には俺の家族がいるんだが、問題がなければ、そこに来ないか?」
「家族って?」
「そう、だな……妹のような姉と言うか、姉のような妹と言うか……ん〜なんと言ったらいいか?」
「……そう」

 首を捻りうんうん唸る士郎の様子を首を傾げ見上げていたユキが、一瞬、クスリと笑った気がした。

「で、どうだ?」
「で、でも、借金が」
「俺が払う」
「そ、それは……」
「ユキには命を助けてもらったからな。気にするな」
「は、払えるの?」
「まあ、今は手持ちがないが、こうみても、それなりに貯金はもっているんだ。だから借金のことは気にするな」
「……シロウ」
 
 目尻から溢れる涙を、士郎はそっと指で拭ってやると、安心させるように、満面の笑みを向けた。

「来るか?」

 士郎の言葉に俯いたユキの顔から、次
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ