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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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かった。何とか撃退には成功したが、食屍鬼(グール)の数が多く、致命傷はないが血を流しすぎた結果、砂漠の上で力尽きてしまった。 
 その後、死にかけていたところをユキに助けられ、さらには家に泊められた士郎は、家の手伝いを終えた夕方から魔術師の探索を行ったが、結果は芳しくなかった。しかし、いつまでもユキの世話になるわけにもいかず、そろそろ出ていこうと思った士郎だが、最近ユキの元気がないことから、最後の恩返しと、どうにか元気にするため、これまで色々とやってみたが結果は良好とは言えなかった。
 特にユキが村から帰ってくる時の顔色が悪いことから、村に原因があるのではと考えた士郎は、約束を破ることを心苦しく思いながらも、ユキのためだと、日が落ち、ユキが村に行くのを後をつけて行ったのだが……。





 士郎は今、自分が目にしている光景と耳にしているものを信じられずにいた。

 ――――っ……ぁ……ぃぁ……っぁぁ――――

「こ……これ、は……いや……ま、さか」

 壁の向こうから聞こえるのは、最近で随分耳に慣れた少女の声。

 ―――――ぃ……ぅぅ……ぁぁ――――

 押し殺しているがこの声は間違いなくユキの声であり……響く粘着質な音と、微かに匂うこれは……。

 ――――――ぃ……ぁ――――――

 室内から聞こえる声は複数有り、ユキ以外の声は男の声だ……それも、複数の……。

 ―――はは、やっぱり身体が小さいとキツくていいな―――

 ―――金のためにここまでやるとはねぇ―――
 



 小さく……優しく……儚げな……その名の通り雪のような少女は……士郎の目の前で身体を売っていた。 
 





 気付いた時、士郎はユキの小さな身体を胸に抱き、村から遠く離れた川縁に立っていた。両手に抱えたユキの身体には、所々に白いもので汚れている。士郎から顔を背け、小刻みに身体を震わすユキの様子に、士郎は歯を食いしばり溢れだそうとする感情を押さえつける。そっと、ユキを地面に下ろすと、士郎はユキに背を向けた。

「……身体を」
「……」

 背後で水音が聞こえる。川の水を手ですくい、身体を清める音が聞こえる。

「……っ……ぁ」
「ユキ?」

 何か聞こえた気がした士郎は振り返ることなく、ユキに声をかける。

「シロウだけには……知られたくなかった」
「……すまない」

 喉の奥から絞り出すように、士郎が謝ると、ユキは震える声をかけてきた。

「汚い……よね」
「なっ、馬鹿を言うな! ユキが汚い? そんなはずがあるかっ!!」

 静寂に包まれた闇の中、その声はどこまでも轟く。ユキは士郎の大音声に一瞬息を飲んだ。 

「っ……ほ、本当?」
「当たり前だ」

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