第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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仕事を始めるか」
「そうだな」
とある目的でこの国に来た士郎が、行き倒れたところとをこの家の主であるユキに助けられ、もう一週間が過ぎた。士郎が連れて行かれた家は、一番近い村まで十キロもある、木が一本も生えていない乾いた大地が広がる中に、ポツンと一軒だけ立てられた小さな家であった。最初は直ぐに出ていこうとした士郎だったが、助けられた御礼をしなければと思ったが、手持ちの金は少なく、御礼となる物も特にない。ならばと、労働力で返そうと手伝いを始めたのだった。
そんな士郎の本日の手伝いは……。
「……うん。なかなか。どうだユキ。これが日本の肉じゃがという家庭料理だ」
「……おいしい」
「そうか」
相変わらず無表情のユキだが、微かに口の端が緩んでいるように見える。士郎は隣に立つ自身の胸にも届かない位置にあるユキの頭に手を置くと、ぽんぽんと軽く手を当てた。
「……何?」
疑問符を浮かべ、上目遣いで士郎を見上げてくるユキから目を逸らさず、士郎は目を細め笑い掛けた。
「いや、可愛いなと思ってな」
「……馬鹿」
「お、おい、ユキ」
士郎の手を頭を振って払うと、ユキは士郎に背を向け離れていく。置き場を失った手で頬を掻きながら、士郎が首を捻っている、後ろから呆れたような声を掛けられた。
「何やってんだよシロウ」
「マモルか」
「もうちょっと、言い方を考えろよな」
「言い方って」
マモルの言っていることが分からず、士郎が腕を組むと、手で顔を覆ったマモルが、溜め息をつく。
「はぁ〜……。姉ちゃんにあんな顔させたってのに」
「あんな顔?」
手を顔から離すと、マモルはニヤニヤとした笑みを士郎に向けた。
「顔真っ赤だったぜ」
「え?」
予想外の言葉に、戸惑う様子を見せる士郎に背中を向けたマモルは、ユキが去っていった方向に歩いていく。未だ戸惑いが抜けない士郎に、マモルは口の中で小さく呟く。
「朴念仁め」
「ユキ、どうかしたか?」
砂丘の彼方へ、赤く輝く太陽が沈んでいく。赤光を受ける華奢な身体は、まるで全身から血を流しているかのようだ。その光景が余りにも美しく、恐ろしく……胸が騒ぐ。不安を紛らわせるように、士郎はユキに声を掛けたが、その声は微かに震えていた。
「……シロウは」
「ん」
「シロウは、何をしにここに来たの?」
「ユキ?」
振り返りもせずユキが返事をしたた内容は、今まで一度も聞いてこなかったものだった。あの日、ユキに助けられた日から十日は経つが、その間、士郎がこの国にきた理由や、倒れていた理由もユキは何も聞かなかった。
それが……何故……?
「
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