第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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うことだ。
母親は現地人で、父親が日本人だそうだ。物心ついた頃には、既に父親はいなかったそうだが、母親が父親から教わったという日本語から、二人の名前を付けたそうだ。
「美味いな」
「ああ、やっぱ姉ちゃんの飯は美味い」
「ユキはどうしてる?」
「ん? さあ? 仕事の準備じゃねえの」
「そう言えばユキは何の仕事をしているんだ?」
「さあ? 俺も知らないんだよ。たまに夕方ぐらいに村の方に行っていることしか……。聞いてもいつもあんな調子で黙ってるし」
弁当の中身を口に入れるのを止めると、悔しそうな顔をして家のある方角に顔を向けるマモル。
「村に行く時はいつも一人で行って、俺は留守番してろって言うんだぜ。全く俺はガキかって」
二人は双子だが、余り似ているところは少ない。黒い髪と瞳。彫りの浅い顔立ちという、日本人のようだというところが似ているだけで、他は全く似ていない。例えば、姉のユキは、身長が百五十に届くか届かない華奢な身体つきであるが、弟のマモルの身長は百七十を軽く越え、百八十に届こうかという士郎と何ら遜色はない。また、過酷な環境の下、農作業に従事していたことから、服から覗く腕は細いがしっかりとした筋肉が付いている。
「農作業も、十分立派な仕事だぞ」
「けどよぉ、姉ちゃんが村に行ったら、かなり稼いで帰ってくるんだ……俺だって……」
悔しそうに顔を歪めるマモルの視線は、自分の足に向けられていた。足を投げ出すように座るマモルの片方の足は、膝下から先が、木の棒で出来ていた。簡単な義足を憎々しげに見つめているマモルに、士郎は問いかける。
「村に行った時、仕事を探したりしないのか?」
「……姉ちゃんが嫌がるんだ」
「嫌がる?」
「そうなんだよ。村に行くこと自体が嫌がるんだよ。何も言わないんだけど、ただじっと見つめてくるんだ。めっちゃ泣きそうな目でよ……あの姉ちゃんがだぞ……」
溜め息を吐きながら、乾いた地面に顔を向けたマモルだったが、すぐにガバっと顔を上げると、士郎に詰め寄っていった。
「な、なあシロウ。シロウもいっつも夕方から家を出るだろう。何してんのか分かんないけど、俺も手伝うか――」
「駄目だ」
「まだなにも言ってねぇじゃねえか」
「どうせ手伝うから金を払ってくれとでも言うつもりだっただろう」
「グッ……へーへー分かりましたよ。どうせ何も出来ないガキの俺は、一人家でお留守番してますよ」
不貞腐れたマモルは、士郎から顔を逸らして愚痴を言い始めた。どう機嫌をとろうかと士郎が考えていると、またも、勢いよく顔を士郎に向けたマモルは、その白いはをきらりと輝かせながら、楽しげに笑い掛けた。
「まっ、気が変わったら教えてくれよ」
「……考えとく」
「よっしゃっ! ならさっさと
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