第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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選ばれ
天秤が崩れるように消えていく
天秤が消える一瞬
天秤を持つ男の姿が見えた
それは、光を宿さない瞳を持つ赤い男だった――――――――
燃える炎に炙られ揺れる夜空に、黒い小さな丸い月が昇る。
月は黒い月光を迸らせていた。細い線の様な月光がくるくると回る月に合わせ回っている。
一瞬にして夜空に昇った黒い月は、同じように一瞬にして地に沈み始めるが……
黒い月は彼方に沈むことなく……
……士郎の足元に落ちた。
何時しか星空を塞ぎ始めた雲から、ポツリポツリと雨粒が落ち始めた。次第に強くなる雨足は、天を突くばかりに燃え上がっていた炎を次第に弱めていく。叩きつける勢いで降り始めた雨により炎が静まると、辺りには様々なモノが焼け焦げた臭いが漂い出す。
――――――シロウ……私の名前のユキってどう言う意味?――――――
――――――冬という季節に空から降る……氷の結晶のことだ―――――
――――――こおりのけっしょう?……こおり?……――――――
――――――そうだな……白い小さな綿菓子みたいなものだ――――――
――――――……わたがし? ……よく分からない……――――――
――――――ん〜……まあ、とても綺麗で、儚く、冷たい……小さな白い粒だ。それが空から降ってくるんだ――――――
――――――……そう……綺麗なの――――――
――――――ああとても綺麗だ……いつか、見れるさ――――――
暗く黒い世界……
動くモノはなく……
――――ぁぁぁぁ――――
ただ焼け焦げた瓦礫のみが広がる……
――――アアアアアアア――――
煙漂う焼け焦げた村には、ただ耳を叩く雨音だけが響き――――
――――アアアアアアアアアァァァァァァァ――――
黒く塗りつぶされた世界に、男が一人立っていた。
両手をダラリと垂らし、全身を雨で濡れそぼらせながら、男は闇が固まったかの様な空を仰ぎ見ている。雨音かと思われた、黒く染まった世界に響くそれは、男の叫び声であった。喉よ裂けろとばかりに響く男の叫びは――――
嘆きの慟哭か
憤激の怒号か
哀惜の悲鳴か……
ただ……死んだ世界に……響き……消えた……
地獄を歩む亡者。
その男を見る者がいれば、その言葉がまず浮かぶだろう。
弱まった雨足は強くもなく、また、弱くもなく……ただ、不快なだけであった。視界を邪魔にしない
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