第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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だ
止まった。
「ユ、キ」
額の皮一枚貫いた指先から、血が一雫垂れる。目の前のユキは、顔を垂れているためどんな顔をしているのか見えない。一雫の希望に縋る様に、恐る恐ると士郎が尋ねると、ユキは顔を上げることなく応えた。
「……ころ……して」
しかし、返ってきた言葉は、士郎をさらなる絶望に落とす。
「……ころ、して」
途切れ途切れに訴え掛ける声は、湿った何かを喉に詰めたかのようにくぐもった声だ。壊れたレコードの様に同じことを繰り返すユキ。
「ころして」
顔を上げたユキの顔は、滝の様な汗と涙、様々なものでドロドロに汚れた顔を見せるユキの目は、血の様に赤い瞳が褪せる程の涙を流していた。苦し気に荒い呼吸を繰り返すユキは、士郎と視線が合うと、強い決意が篭った目で、自分の望みを訴える。
「殺してッ! シロウッ!!」
文字通り血を吐きながらのユキの訴えを、顔が歪む程歯を食いしばりながら、士郎は首を振り拒否する。士郎が拒否を示すのを見ても、ユキは諦めることなく自身を殺すよう士郎に訴え掛ける。
「もう……無理な、の……止められない……お願い……シロウ」
「殺せるわけないだろ……お前を……」
「……私は……もう……ダメ……シロ、ウが私を殺し、てくれないと……他にも、人を殺して、しまう……」
「……それ、でも……俺は」
―――――目の前に、ユキに重なる様に天秤が見える
片方の皿には美しい宝石が一つ
片方の皿にはただの石が数十重なっている
圧倒的な数の差があるにもかかわらず、天秤は未だ釣り合っている
ゆらゆらと揺れているが、未だ決定的な傾きはない――――――
ユキの言葉を聞きながら、士郎は頭の中で必死にユキを救う方法を考えている。しかし、どれだけ考えても救う方法が思い浮かばない。それでもと、士郎は必死に考える。ユキを救うための方法を。
だが……
「わた…………私に……マモルを殺させないで……っ」
悲鳴を聞く。
ガチガチと歯を鳴らしながら牙を剥き、ダラダラと流れる様々なもので顔を汚しながら縋るような目を向けるユキの、喉の奥で消える様な悲鳴を。それを最後に、ユキはまたも仮面を被る様に表情を消すと、皮一枚で止まっていた指先を進ませようと力を込め出す。
ユキの指先が頭蓋骨に触れ、
―――――士郎の目の前で、ただの石が載っている皿に、小さな宝石が載せられた
不安定だが釣り合っていた天秤が傾き出す
大きく、眩しいほどの輝きを見せる宝石が、暗い闇の中に落ちていく
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