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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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 それは傷跡……


 彼の身体に……


 心に……


 無数にある傷の一つ……


 どれだけ時が経とうとも……


 決して癒えない……


 今なお血が流れる……


 傷跡…… 

 






 ぎらつく太陽が地表を焼き、時折吹く風は熱を孕み、砂を巻き上げる。見渡す限りの砂丘が広がる中、一人の男が倒れていた。ボロボロのスーツから覗く肌から血が流れ、黒いスーツはさらにどす黒い暗い色に染まっている。微かに男の肩が上下していることから、まだ男は生きていると思われたが、それも時間の問題だろう。
 このまま……だったのならば。

 


 見えているのか見えていないのか、微かに開いた目で空を見上げる男の顔に影が差した。空には雲一つなく、周囲にも影を差すようなものはない。では、太陽の光を遮るのは……。

「生きてた」

 男が視線を動かすと、そこには一人の少女が立っていた。太陽を背にして立つ少女の肌は、この辺りの者にしては白かった。彫りの浅い顔立ちと、曇った夜空のような黒い瞳は日本人を思わせる。

「飲んで」

 腰に下げていた水筒を掴み、少女は男の口元に持っていく。流れ込んでくる水を、男はゆっくりと嚥下する。少女は男のペースに合わせ、水筒の傾きを調整している。

「っ……すま、ない。助かった」
「いい」

 喉が潤い、声が出るようになった男は、命の恩人である少女に御礼を言うが、少女は素っ気なく返事を返す。十二、三歳ぐらいだろうか? 起伏の少ない、百五十センチ程度の身体と、冷たさを感じさせる程に整った顔つきは、まるで日本人形のようだ。
 素っ気ない態度ではあるものの、少女は男が血を流しているのに気付くと、黙々と治療を始める。近くに停っている駱駝から瓶と布を持ってくると、瓶の中身を染み込ませた布で男の体を拭いている。

「……っ」
「我慢」

 傷に染みるのか、少女が布を男の身体に当てる度に、男が小さく呻き声を上げた。それを少女は、顔を向けずに注意する。黙々と治療する少女の姿に、男は戸惑い気味に声をかけた。

「そ、その。ありがとう」
「……」
「あ〜……この傷は……」
「……」
「その……」
「……終わった」

 男の声に何も答えることなく、少女は治療が終わったことを男に告げると、駱駝に向かって歩き出した。去って行く少女を確認すると、身体に力を入れ、男は立ち上がろうとしたが、上手く身体に力が入らず、うつ伏せに砂の上に倒れてしまう。

「っ……っぅ」
「……乗って」

 頭に影が差すのを感じ、男がのろのろと振り返ると、そこには、駱駝に乗った少女が男に手を差し出していた。男は一度大きく息を吸い、再全身
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