第十四話 それでも姉妹
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「シ〜ッ、今は静かにネ。」
金剛が指をたてたので、比叡は黙り込んだ。
榛名の指は華麗にピアノの上を踊り、乙女の祈りからトルコ行進曲に変わっていった。
「姉様。」
寄り添ってピアノに耳を傾けていた近江が突然紀伊に話しかけた。
「なに?」
「邪魔してごめんなさい。でも、どうしても言いたかったことがあります。」
「?」
近江はそっと体を紀伊にもたせ掛けた。
「お会いしてまだ間もないですし、お互いの事、全然知りませんけれど、でも・・・・。」
「でも?」
「それでも私たち、姉妹なんですね。こうしているだけでとても安らかな気持ちになります。」
紀伊はうなずいた。姉妹という実感はまだまだわかないけれど、不思議と穏やかな気持ちになりつつある。それは讃岐に出会って二人でお茶を飲んでいるときに感じたものと同じだった。
「私、今の時間がとても大好き。こうして姉様と一緒に穏やかな時間を迎えられてとても幸せです。そのことを伝えたくて・・・・。」
どうこたえていいかわからなくて、どうすればこみ上げてくるものをおさえられるのかわからなくて、ん、と喉の奥で答えるのが精いっぱいだった。
姉様、と近江が身を離してまっすぐ紀伊を見つめた。
「あらためるのもおかしいのかもしれませんが、この先大変な戦いになりますけれど、姉様。どうかよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
紀伊がしっかりとうなずいたとき、榛名の演奏が終わった。万雷の拍手。そして、アンコールという声があたりにこだましている。
「紀伊さん。」
拍手の嵐の中、榛名が紀伊を呼んだ。紀伊は立ち上がった。
「姉様?」
「ごめんなさい。最後にもう一曲だけ弾くことになっているの。」
「もう一曲?」
「ええ、本当は4人で弾くはずだったのだけれど、でも、榛名さんがどうしてもって。私も同じ気持ちだったから――。」
不思議そうな顔をする近江にうなずきかけると、紀伊はステージに上がっていった。
「・・・・ありがとうございます!アンコールに応えて、最後にもう一曲です。これは・・・・。」
榛名は一瞬目をぎゅっとつむったが、すぐに微笑みを取り戻した。
「これは今佐世保鎮守府にいらっしゃる翔鶴さん瑞鶴さんに送りたいと思います。」
そういうと、二人はうなずき合い、そろって椅子に腰かけた。
「連弾?」
鈴谷が声を上げた。
「ええ、連弾ですわ。珍しいことですわね。普通はあまりないのですけれど・・・・。」
「連弾とはなんじゃ?」
「一つのピアノを二人で弾くことですわ。成功すればとても美しいメロディになりますけれど、でもそれには二人の息がぴったり合っていないと――。」
その時榛名の右手が動き、旋律が沸き起こり始めた。
「しっ、始まりましたよ。」
筑摩の促しで4人は口を閉ざし、耳を傾けた。
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