第十四話 それでも姉妹
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て緩やかに舞い上がってくるのは、シューマンのトロイメライだった。
加賀は目を閉じて、心持赤城に寄り掛かっている。その姿勢のまま彼女は一言だけ言った。
「ええ。」
赤城はそっと加賀の髪を撫でた。
「こんな時間がずっと続いてくれればいいのに。」
「私はそうは思わないわ。」
加賀は目を片方だけ開けた。
「ずっと続いているとありがたみがなくなるわ。三度のご飯と一緒。空腹だからこそ、仕事を終えた後だからこそ、ありがたみも感じられるし美味しくもある。それと一緒だと思うけれど。」
「そうね。」
赤城はくすと笑った。
「あなたがそんなことを言うなんて思わなかったわ。そういう話題は私の代名詞だと思っていたもの。」
「・・・・・・・。」
加賀は目を閉じたが心持頬が赤くなっていた。
「でも、私は少しだけ反対。今のこの時間を刻み付けるために、忘れないために、もう少しだけ・・・・こうしていたいの・・・・。」
赤城は目を閉じて加賀に身を寄せた。加賀はもう少しで赤城に声をかけてしまいそうだった。先日の作戦会議での様子は普通ではなかった。栄光の第一航空戦隊の双璧として共に錬磨していた赤城について、加賀はある疑いを持ってしまったのだ。
臆したのか、と。
だが、結局加賀はその言葉を発しなかった。発してしまえば、もう取り返しのつかないところに進んでしまうのではないか。その思いが加賀を押しとどめていた。
「そうね。」
そうつぶやいたきり加賀も動かなくなった。
紀伊が最後の音を収めると、会場からは盛んな拍手が響いてきた。ちょっとよろめくように立ち上がり、一礼すると紀伊は脇に下がった。そこには次の奏者の榛名が控えている。本当は榛名を最初にしたかったのだが、どうしても紀伊さんから、と言われ、引き受けてしまったのだ。
「とっても良かったですよ。」
榛名はにっこり微笑んだ。紀伊は赤くなってうなずきながら、頑張ってください、と答え返した。
どこに座ろうかと思っていると、誰かがうなずきかけているのが見えた。紀伊はそばに行って並んで腰を下ろした。
「姉様とても素敵でした。私、ピアノの生演奏を聴いたの、生まれて初めてなんです。」
近江が頬を高揚させていった。
「私なんか・・・・。」
紀伊は恥ずかしくなって視線を逸らした。
「次の榛名さんの方がもっとずっと上手よ。」
やっとの思いでそう言った時、榛名の手が動き始めた。
「流石は榛名ネ〜。」
金剛は楽しそうににこにこしながらリズムに合わせて首を左右に傾けて聞いている。
「姉様、もうお腹は大丈夫なのですか?」
隣に座っている比叡が心配そうに聞いた。
「Please don't worry.大丈夫ネ。さっき比叡がくれたお薬でだいぶ良くなりまシタ。」
「ならいいですけれど・・・。」
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