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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十三話 道を切り開く者
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貴族を暴発させるための手段として使うのには反対だった。
改革の精神が歪められてしまう、そう思うブラッケの気持ちはわかる。しかし、陛下は御健勝になられ、貴族たちは雌伏している。このままでは内乱は起きず、反乱軍は戦力を回復してしまうだろう。
止むを得なかった。理性では分っていても感情では納得できない。その思いがブラッケの不満になっていたのだが……。
「卿らが何を言いたいのか分る。不満を持っているんじゃないのか、そうだろう?」
「まあ、そうだな」
ブラッケの問いにエルスハイマーが答えた。
「今日の元帥杖授与式で何が有ったか、知っているだろう?」
「貴族になることを断った事か?」
「その通りだ、グルック」
ブラッケは大きく頷くと、両手でパチンと自分の顔を叩いた。いかん、こいつもう酔ったのか。
「私は心配していたんだ。司令長官にとって改革とは何なのかを。私達には新銀河帝国、宇宙を統一する星間国家という夢を見せてくれた。でも本当はどうなのだろうとな」
「……」
「もしかすると平民に対しての人気取りか、あるいは権力奪取のための数ある手段の内の一つで本心では改革などどうでも良い、そう思っているのではないかと心配していたんだ」
「……」
彼の心配を杞憂だとは言えまい。シャンタウ星域の会戦の大勝利でヴァレンシュタイン司令長官の声望、実力はかつて無いほどに高まった。彼が改革よりも、権力への道を選んだとしても少しも不思議ではない。
「だが、今日貴族になることを断ってくれた。ほっとしたよ、安心した。もし司令長官が貴族になることを受けていたら私は此処を去っていたかもしれない。能力が有るのは分るが信用できないからな」
部屋が静かになった。皆、それぞれの表情で考え込んでいる。司令長官が貴族になることを受けていたらどうすべきだったのか、考えているのかも知れない……。そんな時だった、朗らかな声が部屋に響いた。
「私は司令長官を信じているぞ、ブラッケ」
「……エルスハイマー」
「司令長官は約束どおりシャンタウ星域で反乱軍を撃破した。そして陛下を説得して改革の勅令を出す事まで決めてくれた。帝国は動き出したんだ。私達は確実に前へ進みつつある。これ以上何を望むんだ、ブラッケ?」
確かにエルスハイマーの言う通りかもしれない。これまで私達の唱える改革は一度も受け入れてもらえなかった。それが今叶いつつある。そのことが不安を呼び起こしているのかもしれない。
「私は心配しすぎなのかな、エルスハイマー」
「そうだ、心配しすぎだ」
あっさりとエルスハイマーに断定され、ブラッケは絶句した。そんなブラッケをおかしそうに見ながらエルスハイマーは皆に言葉をかけた。
「それより例の件、準備は出来ているのか?」
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