暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜暗躍と進撃の円舞〜
僕だけがいない家
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ブン殴れ」

「…………言われなくても」













レンがいない。

そのことにマイが気付くのはすぐだった。

とは言え、決してそれはシステム上のフレンドリストからレンホウの名前が消えたことを確認したから、という訳ではない。

マイは小日向相馬が組んだ謎のプログラム、《ブレインバースト・システム》の鍵――――いや、コントロールプログラムを持つ。他人の魂に関わるそのシステムを掌っているためか、あの少女は深部接触したプレイヤー全てのフラクトライトの状態を常時視ている。

そこに彼我の距離は関係ない。マイはレンがコンバートを完了し、この世界を去ったその瞬間からそのことを知覚できるのだ。

だがいなくなったからと言って、別に死んだわけではない。

再コンバートを果たせばレンホウのアバターはまたALOに現れる。

だからと言うと変な言い方になるかもしれないが、そういう意味ではマイが取り乱す――――ことはなく。

能力値以外の全てのアイテムや装備品が消失するコンバートシステムの性質上、このホームの所有権の譲渡や彼の使い魔クーを預けたりと、結局最後までマイに為されなかった詳しい説明に拗ねる――――のでもなく。

代わりに。

「ねー外行きたい外行きたいんだよー!!」

本当に忌々しいほどのアウトドア精神を爆発させていた。

木工職人(ウッドクラフト)が造ったレア素材の家具も、駄々っ子の八つ当たりの道具にされては浮かばれまい、と巫女服の女性――――カグラは感じたことのない頭痛を持ったかのように額に手を当てていた。

二〇二五年十二月十三日。

飛行型VRMMO《アルヴヘイム・オンライン》内に存在する広大なフィールド。環状山脈内部に広がるアルン高原の上空に、レン保有のホームは今日も今日とて平和に浮かんでいた。

年末も迫ってきた師走のALOの空は運営体のサービス精神の発露なのか、季節にあった細かな雪がちらついている。窓から見える外庭の景色もすっかり銀世界に変わっていた。

ワールド中央付近のアルン高原――――しかも南東気味でこれなのだから、大陸中心にそびえ立つ《世界樹》以北では考えるのも恐ろしいことになっているだろう。アスナらに誘われ、一回極北の土妖精(ノーム)領へ足を運んだことがあるが、季節がまだ秋だったのにもかかわらずフィールドでの体感温度は零下十数度を軽く下回っていて、用意してきた防寒着ごと凍り付きそうになった。

だが、小川の流れが滞りそうなその寒気も、いざ仕事と張り切って赤々と燃え盛る暖炉に守られた部屋の中までは届かない。

カコン、とうず高く積まれた(ログ)が崩れるのを視界の端に留めながら、カグラは溜め息をつきそうになるのを必死に堪えた。


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