第九話 厚遇の理由
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でもおいしく召し上がられますよ』の一言でスープが飛び散り、割れた食器のかけらが散乱する食堂を片づけたり、怪我人の手当てをする手間が省けるなら、藁、いや皇帝陛下の御召物の裾にもとりすがりたくなろうというものだ。
だが。濫用したあげく呪文が効力をなくしたからって最初に呪文を使った俺に助けを求めてこられるのは不本意の極みだ。出世のためであっても、不本意かつ情けない仕事はできることなら遠慮したい。
『お前ら貴族としての、貴族の家中としての誇りはないのか誇りは!身を捨てても主人を立派にしようという気概はないのか!』
『おーおー、立派なマールバッハ家中になってきたねぇ。おにーさんはうれしいよ、んはははははは』
『乾杯だばう』『乾杯だがう』
校長の背後に校長室からでも盗んできたとおぼしきキャビアをおつまみに四一〇年物のワインをちびちびやっている悪魔と乾杯の歌を歌い始めたゆかいなしもべたちの姿を発見しなかったら、後先考えず声を荒げていたかも知れなかった。
「恥を忍んで打ち明けると、獅子、獅子の子と称する豚があまりにも多すぎるのだ。獅子ならば恥を説けば自ら立ち直りもするだろう。だが、豚に恥を説いても子守唄にしかならぬ。怒鳴りつけて蹴飛ばして、鞭で脅かさねば立って歩くことすらしようとしない」
隠しているつもりだったが、驚き呆れ、激怒している内心は顔に出ていたのだろう。シュテーガー校長はすがるように俺を見ると言った。話の前半こそ言葉を飾ってはいたが、後半になると語調は激しさを増し怒りと嘆きが全身から吹き出しているのが見えるようだった。そして、俺に期待されている役割も言われるまでもなく分かった。
「私に鞭を取れとおっしゃるのですね」
「拷問吏の黒覆面をかぶり、鞭を振るう役は──気に障ったなら謝罪する。名誉を傷つけられたと思うなら言ってくれたまえ。後で決闘にも応じよう──一代で身を興した者でなくてはならぬのだ。豚どもを立場が入れ替わるぞ、卑しい平民の群れの中に突き落とされるぞと恐れさせ、せめて野生の猪にするためには」
要するに、俺は将来の藩屏として頼りにならないどころかお荷物にしかならない貴族のどら息子を躾けるための当て馬役にして教師役だったのである。門閥貴族の子弟並みの厚遇も、当て馬としての俺をどら息子どもに見せつけるため、俺の背後に立つ皇帝陛下や皇妃陛下、リヒテンラーデ侯らの後光で俺が連中に鞭を振るう時躾に逆らう気をなくさせるための演出だったというわけだ。
「私にそんな力量を期待されても困ります」
「謙遜しなくてもいい。君はすでに下賤な平民ではない。ゆくゆくは皇室を支える立派な藩屏となるだろう。冷えて固まった濁った血を持っていようはずがないのだ」
「そうでしょうか」
はっきり言って迷惑だ。三度にわたって遠回しな言葉と視線で
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