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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十二話 十年の歳月
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“逃げないで頂きたい”
ヴァレンシュタインの言葉がよみがえる。あの言葉の意味は帝国の危機から逃げるなという意味だったはずだ。しかし、今は十年前の事件から逃げるな、そう言っているように聞こえる。
話を変えたほうがいいだろう。このままでは気が滅入る一方だ。
「ヴァレンシュタイン司令長官を貴族にと陛下が仰られていましたが、一体誰が陛下に薦めたのでしょう? ブラウンシュバイク公でしょうか?」
「ブラウンシュバイク公ではない。……分らぬかの?」
リヒテンラーデ侯が暗い笑みを見せた。どういうことだろう……、まさか……。
「分ったか、私じゃ」
「!」
薦めたのはリヒテンラーデ侯だった。侯は笑いながら私を見ている。しかし、何故? ……私の疑問を読んだのだろう、リヒテンラーデ侯は答えを教えてくれた。
「貴族を滅ぼそうとしておきながら、自らが貴族になる。そのような身勝手な男に帝国の命運は委ねられぬ! もし受けておったら、内乱終結後にあれを始末するつもりじゃった」
「!」
「見向きもせんかったの。それどころか元帥杖を受け取った後、黒真珠の間を睨みおった。あれは宣戦布告じゃ。貴族になどならぬ、貴族など認めぬ。敵に回るも良し、味方につくも良し、ただ覚悟だけは決めて来い、そう言っておる……」
「……」
侯はヴァレンシュタインを試し場合によっては殺すつもりだった。ヴァレンシュタインはそれに対して宣戦布告で対応した。誰も気づかない所で二人だけが戦っていた。いつかこの二人に追付けるのだろうか……。
しばらくの間、沈黙が私とリヒテンラーデ侯を包んだ。お互い口を開くことも出来ず、互いの顔を見ている。侯はあきらかに疲れた表情をしていた、私はどうだろう……。
「ゲルラッハ子爵、これ以上は躊躇うまい。これ以上躊躇えば我等が滅ぶ事になる。あれはの、外見とは違って中身はきつい男なのじゃ。甘く見てはならん。我等は陛下の御意志に従い新しい帝国を創らなければならんのじゃ」
リヒテンラーデ侯はそう言うと部屋を出て行った。侯の後姿はあきらかに疲れをあらわしている。しかし侯は戦う事を止めようとはしていない。そして明日からは新しい帝国を創るために戦うのだろう。
私は何時か、侯に追付けるのだろうか……。
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