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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十二話 十年の歳月
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くべきだろうか? 今聞かなければ二度と聞く機会は無いだろう。
「御叱りを覚悟でお聞きしますが、何故そのような事を」
叱責が飛ぶかと思うと思わず小声になっていた。だがリヒテンラーデ侯は怒らなかった、不愉快そうな表情もそぶりも見せなかった。ただ、やるせなさそうな表情をすると苦いものを吐き出すように話し始めた。
「……カストロプ公爵家は贄だったのじゃ」
「贄? 生贄の事ですか?」
「うむ。平民達の帝国への不満が高まったとき、カストロプ公を処罰して不満を収める。そのために用意された贄だった……」
おぞましい話だった。カストロプ公爵家が反乱軍誘引のために利用された事は知っている。そして平民達の不満を解消されるために利用された事も。しかし、それが十年以上前に既に決められていた事だったとは……。
「ヴァレンシュタイン司令長官は、知っているのでしょうか?」
「両親を殺したのがカストロプ公である事は知っておったの。カストロプ公爵家が贄であることも気付いておった。聡い男じゃ」
「!」
聡いで済む問題ではあるまい、聡過ぎる。カストロプ公爵家が生贄である事をヴァレンシュタインは気付いていた。私は分らなかった。あの優しげな表情で、一体どれだけの闇を見てきたのか……。思わず寒気がした。
「ルーゲ司法尚書を止めたのが私であることは、さあどうかの、なんとも言えんの。ルーゲにもカストロプ公爵家が贄であることは話した。だからかの、私が止めた事をルーゲは他言しなかったようじゃ」
「……」
「あの時、カストロプ公を処断しなかったのは正しかったと思っている。それまでにも問題はあったがの、あれの増長が酷くなったのはあの件の後じゃ。贄としてよう育った」
「……」
暗い笑みを浮かべながらリヒテンラーデ侯が陰惨な事実を話す。薄暗い部屋で話される陰惨な事実。腐臭が臭ってきそうだった。
「しかし、あの時カストロプ公を断罪しておけばヴァレンシュタインは軍人にはならなかったかもしれん。となると改革の種は私が蒔いたようなものか……」
国務尚書の声に自嘲の響きがある。私が侯の立場だったら……、やはり自分を嘲笑うだろう。何をやっているのかと。
「私が種を蒔き、ヴァレンシュタインが育てた……。大きく育ったの、大きな実をつけた。自分の蒔いた種じゃ、刈り取らねばなるまい」
「……」
「年は取りたくないものじゃ、妙な所で、とんでもない種を蒔いてきた事に気付かされる。困ったものじゃの、ゲルラッハ子爵、卿も気をつけるが良い」
「……」
リヒテンラーデ侯の気持ちが私には良くわかる。侯は帝国を守るためカストロプ公を生贄に選んだ。その過程で一粒の種がこぼれ落ちた。種は大きく育ち、今度は帝国を守るために貴族そのものを生贄にしろと要求している。
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