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ネフリティス・サガ
第四話「王国の陥落」
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イユは逆にわけも分からず走ってしまった。
 夢中で走って城の東の大望遠鏡室へ急いだ。
 目をつぶって走っていたが、薄目を開けてみたものはひどいものだった。おそらく一撃で終わったのだろう使用人たちや執事の死体が見えた。みんな、自分に優しくしてくれるいい人たちばかりだった。彼らは、自分の仕事で忙しいはずなのに自分がつまんなそうにしているといつも「どうしたんですか?アルセイユ様?」と優しい声で明るく話しかけてくれた。そしていつも自分の話を聞いてくれるのだ。
「お、王子殿……下」聞きなれた声が聞こえた。ぼくを呼ぶその声はそれは一番仲の良かったぼくのお守り役の若い女性だった。綺麗な人で、町に三人の子がいる若奥さんでもあってお父さんはやっぱりお城の人で兵長さんをしてる。エレンという名の美しい女性だ。
「エレンさん!」ぼくは、この人を放っておけなかった。すでにどこか激しく打ったのか口から大量の血を吐いていた。
「お、王子。良かった。無事なんですね?」
「大丈夫?こんなに血を……」
「お、王子……お願いがあります、わたし……もう目が見えないんです。さっきから体に力も入らないし。だけどこんなところで一人で死んでいくのは嫌なんです。だから手を握っててもらえますか、手の感覚だけはあるみたいで最後まで人肌にふれていたいの」
「うん、うん分かったよ。絶対、ここにいるから」そして、僕はエレンの手を握った。
「ああ、温かい。ずいぶん血がなくなっちゃったみたいでさっきからとても寒くて怖かったんです。ごめんなさい王子を助けにいこうとしてそしたら突然、爆発が……」
「いいんだよ、そんな。でもなんでエレンさんがっ!」
「アルセイユ様は、ほんとうにいつも世話を焼かせました。でもなんだか町にいる私の子供たちみたいでほっとけなくて。そういえば、また寝巻きをかってに探して洋服ダンスをぐしゃぐしゃに散らかしてませんか?私たち服を畳んでしまうなんて朝飯前ですけど、結構大変なんですよ?内の子供がやっと服の畳み方を覚えたというのにアルセイユ様ったら、王子として失格ですよ?」
「ごめん、今日も寝汗かいて寝巻き取り替えちゃった」
「ああ、もうまた怖い夢でも見たんですね。大丈夫です。夢なんて次の日には忘れてるものですから、ああ、私もだんだんなんだか眠くなってきました。いつもならこれからアルセイユ様を寝かしつけなくてはならないから眠ってなんかいられないんですけど。なんだか今日は少し、いつにもまして眠くって。でも王子殿下がそばにいるからさみしくないですね。ああ、アルセイユ様。死ぬのって苦しいわけじゃないみたい。王子、私もそれから町にいる子供たちもわたしの旦那もたぶんもうそろそろみんなあっちへ行ってしまうけど王子をあっちでずっと見守っていますからね。そうみんなで。だから一人で夜寝るとき怖い思いをし
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