六十話:例外
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十年もの間その背中を追い求め続けた。大きく暖かった背中に再び触れたくて追い続けた。だというのに目に映る背中はあの頃よりも小さく、何よりも―――冷たかった。
「あぁああああッ!」
「はやてちゃん! はやてちゃん落ち着いてください!!」
ピクリともしない父の体に絶叫する。ツヴァイが必死になって止めようとするが何も聞こえない。ただ、悲しみの全てを吐き出すように叫び瞳に憎悪を滾らせる。誰がこんなことをしたのか、誰がやっと掴んだ手を無理矢理引きはがしたのか。頬に付着した父と母の血も拭かぬままに仇を探し出す。否、探すまでもなかった。仇はまるで見つけてくれるのを待っているかのように動くことなくそこに佇んでいた。
「あんたは……誰や?」
黒い髪に黒い瞳。がっしりとした体躯を持つ男の正体がわからずに一瞬戸惑うはやて。敵は声からしてスカリエッティだと踏んでいたのだがあまりにもその姿は違う。似ても似つかない。
「おや、分からないかい? いや、そうだったね。以前の私とは顔が変わっているのだった。では、改めて名乗ろう。私がジェイル・スカリエッティだ」
特徴的な紫の髪も、黄金の瞳もない。体格ですら変わってしまっている。ただ、そのねっとりとした声が彼がジェイル・スカリエッティであることを示していた。一見すれば赤の他人。寧ろ、その姿は―――衛宮切嗣に似ていた。
「その姿……何を企んどるんや…!」
「おや、衛宮切嗣は言わなかったのかい? 世界を塗り替えるには彼のレアスキルが必要だと」
「まさか…あんたは!」
「その通り。今の私は彼の遺伝子を元に生み出した戦闘機人なのさ」
固有結界を展開するためには当然のことながらそれが扱える人間がいなくてはならない。切嗣がその唯一の人間であったが主導権を握られるようでは面白くない。そう考えた天災は新たなる自分を生み出す際に従来通りの型ではなく、衛宮切嗣のクローン培養を使った戦闘機人に変えたのだ。仕上げに記憶を転写し、レアスキルを操るスカリエッティという悪夢のような代物が完成したのだ。
「そこまで似とらんけど、おとんの顔を使うのは許さへん…! ぶっ潰したる!!」
切嗣を殺した上にその名残残した姿で悪事を働くなどはやてには到底許せることではなかった。近くに落ちていた父が囮に使った質量兵器の“コンテンダー”を手に持ち立ち上がる。
ふつふつと胸の内で燃え上がる怒りの業火をぶつけるようにスカリエッティを睨み付ける。しかし、スカリエッティはどこ吹く風といった様子で怒りを受け流すだけである。その態度にはやてが本気で殺しにかかろうとしたところで見計らったようにカードを切る。
「ところで―――その男を生き返らせられるのなら君はどうするかね?」
「な…にを」
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