六十話:例外
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もまた人の欲望の形でしかない。如何なる形になろうとも私の愛は変わらないよ」
何という皮肉であろうか。世界を平和にしようとした男は全てを救うために人間への愛を捨てた。世界を悪逆に満ちた地獄に変えようとする男は己の欲望を満たすために人間を愛した。人の悪性を憎み善性を尊んだ男は愛を失い、人の善性を蔑み悪性こそを尊んだ男は愛を得た。
「恐らく、私以上に人間の価値を信じ、その在り方を愛している者はいないだろうよ」
そう告げる男にはやては聖者の面影を見た。酷く歪んでいる、腐っているといっても過言ではない性根だ。だが、しかし。人をどこまでも信じ無条件に愛するその姿は紛うことなき―――聖者であった。
「もう一度尋ねよう、その男を生き返らせられるのなら君はどうする?」
ねっとりとした蛇のような視線がはやてを見つめる。この男に従えば間違いなく衛宮切嗣とアインスは生き返るだろう。親子が再び揃い幸せな生活を送る。想像するだけで微笑んでしまいそうな素晴らしい生活だ。しかしながら、はやての答えは決まっていた。
「そんなもん―――断るに決まっとるやろ」
「理由を尋ねてもいかね?」
「少なくともおとんはそんな世界を望んでなかった。なら、生き返らせても怒られるだけや。それに、何より私はあんたが好かん」
弱者の存在が平然と踏みにじられる世界など切嗣もはやても望んではいない。仮に生き返ってもすぐに絶望するだけだろう。そんなことはさせたくない。何よりもはやてはスカリエッティという人間の欲望を認めない。自分の欲望のために家族を犠牲にする行為など―――もう誰にもさせはしない。
「くくくく、そうかね。単純かつ明快な理由だ。では私の方も明快な返答をするとしよう」
笑いながら男は両手に装着したグローブのようなデバイスを捻る。すると彼の手に魔力で練られた黒鍵が現れる。その黒鍵をどこまでも自然に、どこまでも明確な殺意を持って投擲する。
「―――さよならだ、八神はやて」
左右で三本ずつ、計六本の黒鍵が容赦なくはやてを襲う。体は動かない。魔力はほとんど残っていない。しかし、屈しないという気力だけはある。例え串刺しにされようとも真っすぐに立っていようと足に力を籠める。その時だった。
「部隊長はやらせない!」
見慣れた青色の髪が自身を庇うように現れる。頑強なシールドの前に黒鍵は全て貫通することなく打ち落されていく。そしてその横を縫うようにオレンジの魔弾がスカリエッティを襲う。それをなんなく躱すスカリエッティであるがその表情からは余裕は消えていた。
「……ナイスタイミングや。スバル、ティアナ」
「間に合ってよかったです」
「ご無事で何よりです」
絶体絶命のはやての元に現れたのはスバルとティアナのコンビ
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