六十話:例外
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鼓動の一つも示さぬ死体を指差しスカリエッティは問いかける。それは悪魔の取引。かつて正義の味方との間に取り交わされたものと同じような交渉。愛する者を生き返らせるために悪に身を落とすか否か。
「君は私が世界を創るまでの間、私の邪魔をしなければいい。それだけで君の願いは叶えてあげられる。どうかね? 悪い内容ではないが」
どこまでも邪悪な取引を行いながら彼は満面の笑みを浮かべる。髪も目も黒くなろうともその歪んだ笑みだけは変わらない。人が苦しみ苦悩するさまを最大の愉悦とするかのように男はその手に奇跡をチラつかせる。
「……あんたが言う世界はどんなものなん?」
「あるべき姿だよ。全ての欲望が肯定される世界だ。如何なる人間の欲望であろうとそれを肯定する世界。人を殺したければ殺せばいい。異性を犯したければ犯せばいい。この世全ての欲望が肯定されれば―――誰にとっても幸せな世界だろう?」
誰もが己の欲望を抑えることなく解放させればそれは幸せだろう。ただ思うがままに喰らい、殺して生きていいのだから。常に欲望は満たされる。幸福でないはずがない。個人という観点から見ればそれも間違いなく平和な世界だろう。だが。
「でも、それは他人の幸せを踏みにじる行為や。踏みにじられた側は不幸やないか」
それは片方の人間しか幸せになれない。勝者と敗者、それらが明確に区分されるだけ。結局、弱者は弱者のまま搾取されるだけだ。そんな世界は衛宮切嗣にとってもはやてにとっても望んだ世界ではない。しかし、スカリエッティの考えは違う。
「その通りだ。だが、そもそもこの世の全ては等価交換だ。幸福を得るには何かしらの犠牲が求められる。努力を対価にし、喜びという報酬を得るようにね」
人は何かを行いその結果何かを得る。それが良いものか悪いものかどうかはともかく、全ては自分次第だ。だからこそ人生というものは面白い。
「愚かにも衛宮切嗣はその法則を破壊しようとした。全くもって滑稽だよ。初めから何一つ失わず、全てを得た人生など生まれた瞬間に殺された方が余程マシだ」
与えられたものだけを持ち、何をなすこともなく、ただ呼吸だけをしてそこに在り続ける。それは悪と呼ぶほどのもではないのかもしれない。だが、醜い。魂の輝きを欠片たりとも感じさせぬそれはひたすらに醜い。生きている価値などない。
「生命の輝きを感じさせぬ世界など私は認めない―――1人の人間としてね」
どこまでも澄んだ瞳でスカリエッティは告げる。彼は悪だ。紛れもない悪性の塊だ。だが、人という種族を他の誰よりも愛している。その愛が歪んだものであっても愛を否定する材料にはならない。
「故に私は生命が最も輝く瞬間、即ち欲望の肯定を行うのだ。その結果、凄惨な世界になったとしてもそれ
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