暁 〜小説投稿サイト〜
小才子アルフ〜悪魔のようなあいつの一生〜
幕間 獅子は荒野へ
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
上げます。鼠にもある矜持が獅子の情けを受け入れることをよしとせぬのでございましょう。鼠を救わんとすれば、鼠の矜持を満足させてやることが必要でございましょう」
 「己のことであれば受け入れ難くとも、子のことなら喜ぶやもしれません」
 「いいだろう、ヘスラー、ガイル。だが私には時間が必要だ。あの分からずやが友であったことを思い出す時間が」
 絶縁状を書くためペンを取ろうとしかけてヘスラーとディートリッヒ、もう一人別な従者になだめられ、ゲオルクは数回荒い呼吸をすることでようやく気を鎮めた。だがミューゼル家の子供たちをディートリッヒではなく別な郎党経由でマールバッハ家の郎党・侍女として仕官させるよう勧めてみよう、という気になったのは翌日のことであり、理性も十分であるゲオルクが長年の付き合いもある友人に対して心が冷えていることを三人は悟らざるを得なかった。
 そして、クナップシュタイン男爵の甥である最後の温情を携えた使者が手ぶらで帰ってきたとき、ディートリッヒはもちろん古くからの従者であるヘスラーとガイルにも主人の冷たい怒りを止める術はなかった。
 「いいだろう、自分一人でやってみるがいいセバスティアン。できるものならな!」
 頑迷ゆえに旧友の密かな庇護をも失ったセバスティアン・フォン・ミューゼルが亡命に追い詰められるのに、時間はかからなかった。
 「閣下、閣下。お逃げなさい。このまま帝国に留まっては、お命も危ない。フェザーンへ行くならば、私が多少は手を貸してさし上げられる」
 フォンの称号があるとは言うものの詐称の疑惑の濃いウォルフガングという怪しげな紳士、着なれたようにも貸衣装のようにも見える背広にシルクハットをかぶった舞台役者めいた容貌の男が亡命を進めてきたのはそれからすぐだった。
 「フェザーンへ行って、騎士の物語でもお書きなさい。閣下の教養があれば、いい売り物ができる。ご令嬢と御子息にも、よい将来が開けましょう」
 普段ならさすがに胡散臭いと、罠の臭いがすると嗅ぎつけることもできたであろう。だが知人も含んだロイエンタール系の債権者たちが大挙して押し寄せ、罵倒の限りを尽くして去って行った後の打ちのめされた精神状態では、セバスティアンはもちろん彼の息子にも娘にも気付くことは不可能だった。
 数人の債権者がこの怪しげな紳士の囁く儲け話でなだめられ、後日証文を返してきたという出来事があっては、なおさら。
 「フェザーンはなかなか広大でござる。人の波に紛れれば追手もそうそう嗅ぎつけられますまい。ごゆるりと、お過ごしあれ」
 オーディンを出発する最後の最後まで『大帝の騎士』への礼節を守り、何くれとなく尽くしてくれた恩人の正体が恐るべき悪魔であると気付いた時には、罠の口は完全に閉じていた。
 「おい、方向が違わないか?」
 出港から数時間後、
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ