転身、そして邂逅
Act1.この支配からの、卒業
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放った男…年は見たところ俺とそう遠くあるまい。
話してみたところ広告の契約先を一任されているようなので、年の割にはかなりの要職に就いていることとなる。
「…こうも同じ年なのに違うのか」
考えてると段々惨めな気持ちになってきたのでそこで思考をせき止める。
終電に揺られながら、翌日の一ヶ月ぶりに取れた休暇のことについて思いを馳せてみる。
「会社のクジ運は最悪だが…こっちはそうでもなかったよなぁ」
思わず口元を緩めてニンマリしてしまった。知らない人が見たら変なヤツだと思われるに違いない。
しかし生憎の終電、車両に乗ってるのは俺だけだ。
脱線した思考を引き戻しつつもニヤニヤは止まらなかった。
アレ今頃もう家に届いているハズだ。
ソード・アート・オンライン、通称SAO
アーガス社の発売した世界初のVRMMO、
たった1万本しかない初期ロットの先行予約には10万というキチガイじみた人数の応募が殺到したが、それをくぐり抜けて当選したのは僥倖という他ないだろう。
そしてそのカードリッジが家に配達されているのだ。さらに明日は正式サービス初日。
これをニヤニヤせずにいられようか。
早く仕事のことを忘れて剣を振り回したいなぁ…などと益体もないことを考えつつ、普段より五割増しで軽い足取りで家賃7万の1LDKへと向かいそのままダッシュでポストを除く。
そして、そこには目当てのブツがあった。
「よっしゃあああああああ!」
思わずガッツポーズまでしてから、近所の目が気になるので慌てて口を噤んだ。
「たっだいま〜♪」
そのまま誰もいない家に上機嫌で帰宅すると、しばらくハイテンションのままうっとりとパッケージに見入る。
しかし、やがて一日の疲れがどっと圧し掛かってきて…俺は説明書を読みながら爆睡してしまったのであった。
――来たる翌日、
結局目が覚めたのは午後4時だった。
俺は未だに首筋にこびりつくような疲労感を払い落としながらむくりと起き上がると、そのままジャージに着替えてボサボサの髪のまま最寄りのコンビニエンスストアに遅めの朝食を買い求めに行く。
パック入りのシーザーサラダを果汁100%のジュースで流し込んでいると段々と意識が覚醒してくる。そうだ…今日はサービス開始初日、ちょっと興奮してきたぞ。
朝食を済ませると既にサービス開始まで2時間という時刻となっていた。寝過ごさなかった我が身を褒めつつもぱっぱと風呂やトイレを済ませると、繰り返しスマホで公式PVを見つつその時間を待ちわびる。
無限に感じられるような時間を経て、サービス開始5分前となった。興奮のせいかブルブルと震える腕でその濃紺のギアを被ると、枕元にある電子時計のみに視線をフォーカスさせる。
あと5秒……3、2、1
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