第十三話 覚悟
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た自分、常勝を重ねていく中で一瞬の油断が生んだ死の敗北の瞬間、飛来する敵機の大編隊、投下された爆弾の落下音、命中の瞬間とどろいた閃光、飛行甲板上で燃え盛る紅蓮の炎、逃げ惑う人々、そして傾斜していく甲板から落下していくあらゆる物。
「・・・・私は、苦しかった。本当に苦しかったんです。苦しくて苦しくて苦しくて・・・でも、死ぬこともできずずっと海を漂うしかなかった・・・・。」
その時の光景が脳裏にうかんできたのか、赤城は逃れるように一瞬両手で顔を覆った。
「その苦しみから逃れるために、最後には・・・・舞風さんに、私の介錯をお願いしました。」
海風に長い髪が乱され、表情はわからなかったが、赤城の声は少し震えているように紀伊には聞こえた。
「忘れたくても、忘れられない・・・・。生まれ変わった今も、その夢を時々見ることがあります。どんなに訓練を積み重ねても、どんなに勝ちを積み上げて、無敵艦隊と呼ばれようとも、私の不安も苦しみも消えることはありません。」
「赤城さん・・・・そんな・・・・。」
紀伊は衝撃を受けていた。栄光の第一航空戦隊として最精鋭の名前をほしいままにしていた赤城が内心ではこんなにも巨大な不安を抱えている。それは空っぽの自分さえも赤城の不安に比べれば、まだましなのではないか。赤城の持つ不安は、自分のよりもずっと大きなものなのかもしれない。紀伊はそう思い始めていた。
「なぜあなたにこんな話をするのか、不思議に思っていらっしゃるでしょう。」
赤城は紀伊を向いた。もういつもの穏やかな顔に戻っていた。
「あなたの名前を初めて聞いたとき・・・・あなたがこの鎮守府に配属されることを知ったとき・・・・・少し、私の中で何かが変わったのです。それが何なのかわかりませんが、これだけは私はすっと思い込めるようになりました。紀伊さん。あなたが私の・・・いいえ、私たちの苦しみを救ってくれる人なんだって。」
紀伊は仰天した。
「ちょ、ちょっと待ってください!いきなりそんなことを言われても、私・・・・。」
「ごめんなさい。唐突すぎました。いいえ、あなたに守ってくれといっているわけではありません。私も艦娘の端くれです。自分の身は自分で責任をもって守ります。そうではなくて、あなたには私のそばにいてほしい。そばにいて色々と話ができれば、私はとてもうれしいんです。それが言いたくて、あなたを呼びました。ごめんなさい・・・・勝手なのかもしれませんが・・・・。」
紀伊は思わず赤城の両手を取っていた。赤城は驚いたように紀伊を見つめ返した。
「赤城さん。」
紀伊は上ずった声で話し出した。
「私は・・・・私は前世の記憶を何一つ持っていないんです。自分が誰なのか、どんな艦なのかもわかっていません。砲撃も艦載機の離発着も攻撃もまだまだ不十分で、胸を張って誇れるものは何一つ持って
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