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Bitter Chocolate Time
5.開店
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、ケン兄ったら、自分でフォローできなくなるようなこと、言わないの」
「悪い……」
 ケンジは座り直してテーブルに載っていた商品メニューを広げ、テーブルの真ん中に置いた。「いろいろあるもんだな、チョコレート……」
「どれもおいしそう」


 ケンジたちのカップが空になった頃、ケネスが二人のところにやってきた。

「すまんすまん。なかなか手え離せんかったわ。コーヒーのお代わりどうや?」
「どうする? マユ」
「いただこうかな」
「はい、喜んで。少々お待ちを」ケネスは笑いながら一度キッチンに消え、大きなデキャンタを持ってやって来た。「このコーヒーにもほんのちょっとチョコレートの風味がついてんねんで」
「へえ!」

 コーヒーを注いでもらいながらマユミが言った。「ありがとう、ケニー。とってもおいしいよ」
「そうか、そらよかった」

 もう一度キッチンに入って、ケネスは自分用のコーヒーと小振りの箱を持って戻ってきた。

「いいのか? まだお客さんいっぱいじゃないか」
「ええねん。手伝いの三人の姉ちゃんたちが来てくれたからな」
「そうか」
「でも、ケニー、すごいね、こんなにたくさんの種類があるんだ」マユミがメニューをめくりながら心底嬉しそうに言った。
「うちはな、単に仕入れたもんを売る店やないんやで。全商品親父とおかんの手が入っとる」
「あの奥が、仕事場なんだろ?」ケンジが店の奥の大きなガラス板で仕切られたスペースに目をやった。
「『アトリエ』っちゅうんや。ショコラティエの作業場」
「かっこいいね」マユミが言った。
「親父はな、どんな商品でも、チョコレートに関係ないものは置かない主義なんや」
「それでこそチョコレート・ハウス」
「流行ればええねんけどな」ケネスはコーヒーカップを口に持っていった。
「絶対大丈夫だと思うぞ」
「あたしも。間違いなく女子高校生、中学生、主婦の御用達になるよ」
「そやな。それはわいたちも期待しとる」
「こうして喫茶スペースもあるし。ちゃんと跡継ぎもいるしな」ケンジはウィンクをした。

「ねえねえ、ケニー、」
「なんや? マーユ」
「これ、食べていい?」マユミがテーブルに置かれた箱を指さした。
「ああ、すんまへん! 持って来といて、開けもせんで」

 ケネスはその正方形の箱を開けた。一口大のいろんな種類のチョコレートが九つ並んでいた。

「うちの主力商品、『シンプソンのアソートチョコレート』や」
「ストレートなネーミングだな……」ケンジが言った。
「言うたやろ、うちのファミリー、センスあれへんって」
「いいんじゃない? わかりやすいし、十分アピールできてるよ」マユミが言った。
「ほんまに?」
「うん。主力商品なら、これぐらい単純明快な方がいいと思うよ」

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