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Bitter Chocolate Time
1.故障
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ーラ」
「内緒だけどな、俺、あいつの写真持ってるぞ」
「なにっ?!」
「時々それでヌいてる」
「エロ野郎め!」

 そういう男子部員の会話が時々こそこそと繰り広げられる水泳部だった。

 少し小太りの康男が、プールから上がった拓志に声を掛けた。「なあ、拓志」
 拓志はキャップを脱ぎながらその友人に身体を向けた。「なんだ」
「最近思うんだが」康男は拓志に近づき、耳に口を寄せた。「アヤカって、異様にケンジに絡んでないか?」
「俺もそう思ってた。モーションかけてるんかね?」
「だけどケンジ、全然そんな気なさそうだけど」
「ま、当然だよな、あいつ、彼女持ちなんだから」
 康男は肩をすくめた。「未だにあいつの彼女が誰だかわからねえんだが」
「だな」
「ほんとに付き合ってんのか? ケンジ」
「時々ケータイ見ながらニヤついてるのを俺は知ってる。あれはその彼女からのメールを読んでるのに違いないよ」
「今度こっそりヤツのケータイ見てやっか?」
「そうだな」
 拓志と康男はにやりと笑って拳を軽くぶつけ合った。


 ――海棠ケンジ。17歳高二。
 彼には双子の妹マユミがいた。実はこの兄妹は昨年の8月、ふとしたきっかけで恋に落ち、燃え上がる想いを爆発させて抱き合い、一つになった。そしてその関係は今も続き、二人はカラダを合わせ、愛し合って一つのベッドで眠る毎日を送っていた。もちろんその許されざる行為を知る者はいない。ただ一人を除いて。
 その一人とは、二人が一線を越えてすぐの頃、ケンジの水泳部に部活留学でやって来ていた、関西弁を自在に操るカナダ国籍のケネス・シンプソンである。彼はこの兄妹が些細なことでケンカし、気まずくなっていたのを仲裁したことから、その事実を知ったのだった。だが、彼は日本にはいない。


「春の大会直前だぞ。海棠、お前何やってるんだ?」プールから上がったばかりのケンジに近づいてきたのは、水泳部の若いコーチだった。
「すいません」
「何かあったのか?」
「いえ、フォームを少し変えてみたんです」
「知ってる。見てた。そのことを言ってるんだよ」コーチは腕を組んで言った。「うまくいけば記録は伸びるかもしれん。が、お前にそれが合ってるかどうかってのは、ある意味賭けだ」
「ですよね」
「それに、」コーチの声が真剣味を増した。「下手をすると筋肉を痛める」
「え?」
「お前の腕の筋肉の付き方で、あのフォームには少し無理がある」
「そうですか……」
「向上心は認めるが、故障したらアウトだぞ」
「…………」
「しかも、もうすぐ大会だ。考え直せ」
「……」しばらくうつむいていたケンジは、顔を上げてコーチの目をまっすぐに見ながら言った。「明日までに答えを出します」



 風呂上がりに腕をさすりな
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