51.第二地獄・荼毘伏界
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。我儘ばかり言って、自分勝手な事ばかり考えて、身の程も弁えずに前へ進む。
熱に魘されるような衝動。一歩前へ進めなかったら、一歩分だけ届く場所が遠ざかる。
「追いかけるんだ、ずっと……追いかけないと届かない。届かなかったら後悔する。後悔だけは、もうしたくない」
「――そうか、お前は偉いな。俺はそこまで真っ当に物事を考えられなかった。よく知り合いにくそガキ呼ばわりされて、その通りだと思う」
偉い、だなんて言われたのはいつ以来だろうか――消耗するばかりのリージュを支えてくれる暖かな手に、場違いな安らぎと懐かしさを感じた。もう8年も、これほど優しい言葉をかけられていなかった。いや、優しい言葉の温かみを感じられるほどに心を許せた相手が一人しかいなかった。
彼が近づいてきているのは分かっていた。今はオーネスト・ライアーと名乗る唯一無二の存在。足手まといになっている私を助けに来たのか、戦力外通告を告げに来たのかまでは分からない。それでも、近くに彼が来たというそれだけで、活力の薪が心臓の炉にくべられる。
「手、貸してくれるか。頼れそうなのがお前しか思いつかなかった」
目の前で手を差し伸べた男の発した声は、富より名声よりなによりも欲し続けた言葉を象る。
今日の、今の、この瞬間に「そう」答えるためだけに。たったそれだけの理由で――されどほかの誰よりも、黒竜の吐き出す炎より遥かに熱狂的な覚悟を胸に秘めて戦い続けてきた。
手を伸ばす。永遠に届かないかもしれないとまで覚悟したそれは、確かにリージュの指に触れた。
「8年前のあの日に、そのセリフを聞きたかったな――進もう、今度こそ一緒に!!」
「お前がついてこれるなら、好きなだけ一緒にいていいぞ」
「もう、追いついたもの。いやだって言っても離れないよ」
「………お前、男の趣味が最悪だな」
アキくんは、呆れながら微笑んだ。その笑顔が、世界の何よりも愛おしかった。
今日こそは、出鱈目で理不尽な運命を塗り替える。いや、塗り替えられる。
この取り合った手の感触を忘れない限り、絶対にーー。
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