51.第二地獄・荼毘伏界
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人の戦士が戦う音がする。アズライールとユグー。まるで連携などしていないが、ユグーはアズに対応する黒竜の隙をついて攻撃しているため、結果的に黒竜の攻撃は分散されてオーネスト達の所には届いていない。
本来ならばこの戦いにリージュも踏み込まなければならない筈だったのだが、今、リージュは思うように動けないでいる。理由は彼女の周囲を囲む煉獄のような炎と熱気だ。
この超高熱にオーネストとユグーは純粋な防御力と耐熱能力で耐えているが、既に並みの冒険者では数秒で蒸し焼きになるほどの気温に達している。アズはポーションと、おそらくあの背中に連れた恐ろしき魔人の加護によって辛うじて動けているのだろう。しかし防御のステイタスがレベル6の中では低い方であるリージュにとって、この環境はいるだけで過酷過ぎた。
苦し紛れに火避けの加護の効果がある指輪を装備してみたが、効果はあくまでダメージの軽減までだ。これでも非常に貴重なアイテムなのだが、ダメージの遮断までは叶わない。結局リージュは自らの魔法である『絶対零度』を周囲に展開して冷気のバリアを張るのが精いっぱいだった。
(歯痒い……脆い我が身が歯痒い……!魔力も足りない、この環境では氷壁も形成出来ない!この私が足手まといになるなんて――!!)
ぎりり、と歯を噛み締める。血の滲むような努力を重ねてやっと想い人の隣に立つことを許されたというのに、いざ黒竜と相対してみればこの有様だ。かつて世界を滅ぼしかけた伝説の三大怪物の一角は18歳の女剣士には余りにも強大過ぎたのかもしれない。
そう考え、ふと自分があまりに馬鹿馬鹿しい事を考えている事に気付いた。
「強大過ぎる力………ははっ、わたしって馬鹿だ。その力に抗う為に私は――私は戦う事を選んだんじゃないの」
人生は抗う事の出来ない大きな波が荒れ狂い、それは人の運命を幾度となく狂わせる。こんなはずではなかった運命を引いてしまったあの日の雨が降り注ぐ夜に、リージュはそれを思い知らされ、そして運命を越える力を欲した。
終わりは突然訪れる。幼馴染のと永遠とさえ思える決別もそうだった。だからその突然が現れても一刀のもとに両断して前へ進めるように、一足先に修羅の道へ足を踏み入れなければいけなかった人に届くように――二度とあのような惨めで苦しい思いを彼にさせないために、自らを磨き抜いた。
泥も被った。血反吐も吐いた。嘲りと嘲笑は聞き飽きて、女だからと何度も下品な連中に襲われそうになった。裏切り、虚偽、大人特有の薄汚い駆け引き。人間と戦う時は常に格上で、身だしなみを気にする時間が惜しくて常にざんばら髪。今のリージュの姿からは想像も出来ない狼少女は、誰彼かまわず噛みついて、少しでも経験を糧にしようと足掻き苦しんでいた。
今もそうだ
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