第百十三話
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Oに来れなくなるかも知れない、といういつぞや相談された話。まるで変わらないアスナの頑な態度に、確かに何も変わってなさそうね――とリズは嘆息する。人の家庭内のことなど、あまり立ち入るべきではないと分かっているが、かといって放っておいてはおけず。
「ねぇアスナ。やっぱりキリトの奴に相談しなさいよ。偉そうなこと言うようだけど、今のあんたには必要なのは余裕よ」
「ダ、ダメよ! キリトくんには……ダメなの」
いつもの判断力を失っているアスナに必要なのは、信頼できる人に相談して、余裕やゆとりを取り戻すことだと。そうリズは説得するものの、アスナはやはり首を縦には振らなかった。
「キリトくんには、その……私の弱いところを見せちゃダメなんだから」
――あたしも端から見たら、こう頑固なのかしら。リズはそう思わずにはいられなかったが、ひとまずその考えは頭から追い出しておき。ため息とともに背後に振り向くと、リズは家の廊下に向かって語りかけた。
「そうらしいけど?」
「え……?」
リズが差し出された紅茶を飲み干していると、語りかけた廊下の向こうから、困ったように笑うキリトが部屋に入ってきた。アスナが驚愕の表情とともに固まり、お代わりに準備していた紅茶のポットを落とすのを、ギリギリのところでリズがキャッチする。
「キリトくん……その、なんで……リズ!?」
「ま、待ってくれアスナ! リズには……俺から頼んだんだ」
混乱する考えをまとめて事態を把握したアスナが、怒りの感情を込めてリズを糾弾するものの、それをキリトが間に割って入って止める。アスナの表情がキョトンとしたものに変わると、キリトが事情を説明し始めた。
「アスナの様子が変だな、って思ったから……リズに相談してさ。ちょっと一芝居してもらったんだよ。ごめんな、アスナ」
「事情は話してないけどね」
アスナを悩ませている家庭の事情については聞いていないが、アスナの様子がおかしいことに気づいていたキリトは、リズに頼んで《隠蔽》スキルで隠れていて。こそこそと隠れるような真似をしていたことを謝罪すると、アスナはキリトに合わせる顔がないかのように、顔を伏せてその長髪で表情を隠した。
「……でも、私……」
「二倍じゃないですか」
「え?」
キリトは強い自分を好きになってくれたのだから、弱い自分を見せてはいけなかったのに――と、アスナの心の内を様々な感情が渦巻いていると。場の雰囲気にそぐわないような声で、唐突にキリトがそんなことを呟いた。あまりにも突然だったために、ついアスナも素っ頓狂な疑問の声をあげてしまう。
「好きな人の違う一面を見れたら、二倍好きになれるじゃないか……って」
まるで台本を読み上げるかのように語
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