トワノクウ
未明 冬の蝶
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「一緒に、来る?」
「――うん」
知らない人で、変な人だけど、くうは『先生』についていった。
篠ノ女紺は、油断した隙にダッシュで逃げた一人娘を探して、校舎を奔走していた。
あんなに外の世界を嫌がっていたとは思わなかった。萌黄の勢いに押されて焦っていた。娘の心が量れなくなっていた。
考えていると、スマートホンにメールが入った。旧友からだ。
『今、うちの中学にいる?』
いるぞ。――送信。
『娘さんも一緒?』
その娘のための説明会参加だからな。――送信。
『娘さんと今も一緒?』
目下行方不明で捜索中だ。――送信。
『迷子?』
ああ。お前知らねえか? 肩出しワンピースの子。――送信。
『その子の服、肩出しのシースルー?』
そうだが? ――送信。
『今、俺の横にいる』
スマートホンを打つ手が止まった。
紺は深呼吸して、そいつの居場所を問う。
返信を見た紺は、猛然と職員室へと駆け出した。
「一言『娘を保護しているから迎えに来い』って打てねえのかてめえは!!」
父が職員室の応接スペースにものすごい剣幕で乗り込んできて、くうはつい横にいた「先生」にしがみついた。
「あっはっはっはっは!」
帰宅したくうから事の顛末を聞いた篠ノ女家のお母さん――萌黄の軽やかな笑い声がリビングに響いた。
「んないつまでも笑うことねえだろ!」
キッチンで夕飯の支度をしていた父が反論するのを、くうは横からお手伝いしながら聞いていた。
篠ノ女家では父親が料理をして娘が手伝うのが日常風景だ。
「元はと言や、あいつがちんたらしたやりとりすっから」
「だからおかしいんじゃないの。ふふっ、あははっ」
くうはせっせとお皿を持っていく。母がそれを受け取ってテーブルに並べた。料理は旦那様を師匠に修業中の母だが、それ以外のしぐさは流れるようにきれいだ。
「ねえ、くう。あの先生、おもしろい人だったでしょ?」
「おもしろい?」
笑える場面は一つもなかった。よって、くうはノーと答えた。
「あらあら」
母は困った顔をする。
「でも、また会いたいかな」
結果としてくうは第一志望の中学に不合格となる。
しようがないので自分のレベルでオンライン受験ができる中学を適当に選んで、そこに合格し、そこの中学に通うこととなった。
しかしながら、中学校に通い始めてから、「先生」はひんぱんに篠ノ女家に足を運ぶようになったので、くうの本懐は達成されたといえる。
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