トワノクウ
未明 冬の蝶
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少子化が加速し、日本人の人口が急速に減少した現在、都市部にすむ層と地方に住む層の二極化はほぼ完了していた。人手不足を補う労働力の機械化、ネットワークの進化、これらがその背を押したと考えられている。
子どもの数が減ったため教育の場は減り、自宅学習や私塾で資格を取るケースと、より高度な教育を求めて都市部の学校へ入寮させるケースに分かれていた。
その当時、くうは父母と三人で暮らしていた(といっても現在もだが)。
頭のいい父親。お茶目な母親。そこに好奇心旺盛でちょっぴり生意気な娘が加われば、文句なしのパーフェクト・ファミリーが完成した。
初等教育課程が通信教育で同世代の友人がいなかったことも手伝って、くうにとっては父母が世界の全てだった。
くうには、外の世界を知る必要がなかった。
それがどうしたことか、くうにしてみれば本当に突然、両親が中学受験を切り出した。
母は追いつめられたように「このままじゃダメになる」とくり返した。何が「ダメになる」のか、くうには分からなかった。学業体験ならオンラインバーチャルでやったのに。
納得いかぬまま、学校説明会に父親と一緒に参加したくうは――
正体不明のむかつきに任せて、自主的に迷子になった。
「先生、さよーならー」
「はい、さようなら」
すれ違う生徒たちに応えて、彼は廊下を歩いた。
目に飛び込む、私服の児童とスーツの父兄がごった煮になった群体。そういえば今日は来年度の新入生を対象とした説明会だった。
階段を下りる途中で、ふと視界に、ぱたぱたと走って行く少女がよぎる。
(親御さんとはぐれたのかな)
彼は少女を追いかけてみた。少女の進み方には法則がない。入り組んだ校舎を適当に歩いているようだった。
ついに少女は立ち止まり、うずくまった。
「ねえ君、大丈夫?」
父親への反抗心から学校を徘徊した上に、帰り方が分からなくなったくうは、見知らぬ大人に身構えた。
「ケガとかじゃない、みたいだね。どうしたの? 具合、悪いの?」
くうはぽかーんと大口を開けていた。彼は無表情でその口に指を近づけてきた。
くうは口をばく! と閉じる。彼は咬まれる前に指を引っ込めた。
(変な人)
学校にいるからには先生だろう。だが、くうを叱るでも慰めるでもない。芸術的なまでに無表情だ。
(変な人、だけど)
心細かったのも本当だから、つい涙ぐんだ。
すると、その「先生」の親指がくうの涙をぬぐった。
「迷子、くらいじゃ、死んだりしないんだから、泣かない」
ぎこちなく、笑顔。
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