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トワノクウ
トワノクウ
未明 金胎両部
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 光学ディスプレイだけが光源の薄暗い部屋に、パッと電灯が点いた。

 紺は電灯のスイッチのある部屋のドアをふり返った。


「やっぱり根詰めてると思った」
「萌黄さん」


 紺より十以上は歳が離れてなお若々しい妻は、整った笑みを保ったまま部屋へ入って来た。今さら入室するしないで許可を取り合う仲ではない。

 萌黄は紺の後ろに立つと、しなだれかかるように紺に抱きついた。


「今日はくうの家庭教師に鴇が来た日だから。絶対作業≠オてると思ったのよ」


 ――鴇時も雨夜之月も、どちらも犠牲にせずに、あちらに残った鴇≠現実に帰すためのストレージ。
 学生時代に萌黄と共同で開発したそれは失敗作に終わった。

 だが、IT技術は日進月歩。

 当時から二十年近くを経た現代には、当時にはなかった技術が氾濫している。
 それらの技術を継ぎ足しては削り、修正しては数式を加え。文字通りの試行錯誤を、もう何千回とやったことか。


「なんとかしてやる、って言った手前、投げ出しにくくてな」


 特に、一人娘の家庭教師として、彼岸の六合鴇時と頻繁に顔を合わせるようになってから、よけいにそう思うようになった。

 未練がましい話だ。産まれた娘を後継者≠ノしないと決めてから、鴇時より妻子を選んだはずだったのに。


「頑張るのは止めないけれど、せめて灯りは点けて。作業が進んでも、目をやっちゃったら意味がないわ」
「気をつける」
「そう言って何回私が電気を点けに来てあげたかしら?」


 タイマーでルームライトがオート点灯するよう設定してもいいのだが、篠ノ女家ではそうしない。

 部屋の灯りに留まらず、オートに頼れば楽な動作の全てを、手動で行うようにしている。便利になる代わりに失うものを、篠ノ女紺は自身の半生からよく知っていたからだ。

 今も、タイマー設定の灯りが勝手に点いたら、萌黄はこの部屋に来ず、こうして萌黄と触れ合うこともなかった。


「くうは?」
「鴇に習ったとこ、猛烈に復習中。次に鴇が来るまでには必ず克服してやるって。まるで恋する乙女ね」
「鴇、帰ったのか。んじゃ、時間も時間だな。そろそろ飯にするか」
「そうしてもらえると私も助かるわ。私もくうもおなかペコペコなんですもの」
「……前に料理また一個教えてなかったっけ」
「分かってないわね。私達が食べたいのは、紺のごはんってこと」


 萌黄は少女のようにあどけなく、夫に笑いかけた。


「……俺もたまには愛妻料理ってやつ、食ってみたいんだけど」
「また今度ね」

 紺と萌黄は互いに身を寄せ合い、唇を深く合わせた。
 それは睦み合いではなく、誓いの口付け。


 ――俺たちは絶対にお前を取
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