第一章
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正義
天秤がある。彼女はいつもそれを手にしている。
正義の女神アストレイヤは人の善悪を測る天秤をその右手に持っている。それを見てだ。
人の善悪を見ていた。しかし近頃だ。
「またこちらに傾いたわね」
「悪の方にですね」
「ええ、またよ」
天秤がだ。彼女から見て左に傾くのを見てだ。茶色の波うつ髪に青い湖の瞳に白い肌、そして白く薄い衣を着て背中には白鳥の翼がある彼女がだ。ヘルメスに答えたのだ。
「また天秤が」
「左側、即ち」
「悪に傾いたわ」
「今回の裁判もでしたか」
「この天秤は嘘を前にしてもね」
人がだ。女神の前で嘘を言ってもだというのだ。
「それでも見極めてね」
「善か悪かを見定めるもの」
「だからわかるのよ」
下げて持っているその天秤を見ながらだ。アストレイヤは溜息と共に話す。
「この天秤を持っている私にもね」
「そうですね。ですが」
「ですが?」
「貴女は今悲観されていますね」
そうだとだ。ヘルメスはアストレイヤを見ながら微笑んで言うのだった。
「そうですね。人に対して」
「ええ、その通りよ」
まさにそうだとだ。アストレイヤは憂いに満ちた顔でヘルメスに返した。
「人は嘘を吐く。そして」
「悪が多いですね」
「天秤は悪の方にばかり傾くわ」
「それ故にですね」
「ええ。人はやはり」
悪ではないかというのだ。これがアストレイヤの今の考えだった。しかしだ。
ヘルメスはにこりと笑いそのうえでだ。こう彼女に言うのだった。
「それではです」
「それではとは?」
「明日見ましょう」
「明日とは」
「明日も裁判を行いますね」
「ええ」
それが彼女の仕事だった。彼女は正義の女神であり人の罪の裁判もつかさどっているのだ。
だからそれ故にだとだ。こう言うのだった。
「その通りよ」
「ならです。明日にです」
「その明日に」
「見ればいいのです。全ての判決を」
「それでわかるのかしら」
「はい、人が果たして善なのか悪なのか」
ヘルメスはにこりとさえしてアストレイヤに話した。
「おわかりになられますよ」
「それは本当なのかしら」
「はい、では実際にそうされますね」
「ええ。それじゃあ」
こうしてだった。アストレイヤはヘルメスのその言葉に頷きだ。そのうえでだ。
次の日は朝からだ。一つ一つの裁判を注意して見た。善に傾く場合と悪に傾く場合それぞれの回数を数えていくことにしたのだ。そうしたのだ。
まずはだ。窃盗の裁判だった。それは。
盗んだ者は盗んでいないと主張する。しかしだ。
天秤は左、
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