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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十二話天下の乱れんことを悟らずして
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めだった事を思い知らされてるよ――後十年あればもう少しましだったろうに」
 

「面倒の性質が変わるだけではないか?」

新城の鋭い言葉に豊久は苦い笑みを浮かべた。
「そりゃそうだろうな、それでも多少はマシになると信じたいところだが――あぁそうだ」
真新しい煙を目で追い、天井を眺めながら豊久は言葉を継ぐ
「――性質が変わる前の面倒の話をしよう。近衛禁士から組み込まれた連中がいるだろう?」

「‥‥‥あぁ」
 近衛禁士は五将家の貴族達が将校を務めている。ここからは聞かなくてもよく分かる話である。

「できるだけ生かして返せるよう気を配ってやってくれ。特に若い奴を。そちらへの救援作戦を楽にしたい」
 そういいながら新城に視線を戻したとき、豊久の顔にはにこやかな笑みが張り付いていた。


「――豊久、貴様はいつから人質をとって稼ぐようになった」


 新城直衛の冷え切った視線を受けても馬堂の嫡流は笑みを崩さない。崩してはいけない、新城直衛は執念深い人間である。新城直衛は必要であれば殺人を犯すほどに果断である。だがその判断を下す前にかならず徹底的に情報を集める、感情的な決断を避けようとする。
であればこそこの男と敵対するような真似は避けねばならない。必ずどちらかが破滅するその瞬間まで争い続ける羽目になる、馬堂にとっても自分自身にとっても
 ――少なくとも自分は好悪を抜きにしても目の前の男が恐ろしくてたまらない。

「や、いいたい事は分かるけどさ。
俺の戦争には貴賤がないなどと見得を切られてもね、困るのよ――ここで駒城家が孤立したら貴様も俺も共倒れだ」

 だからこそ、豊久は笑みを張り付けて嘘のない言葉を紡ぐ。新城直衛の戦場を荒らしまわり、静かに煮えたぎる怒りに焼かれぬように舞ってみせねばならない。

「直衛、お前さんだってさ、若菜の命の値段を見切ってみせたじゃないか。
同じ口でこちらを断罪するような真似をしてくれるな、誰かの命の価値を落とすか上げるかだけの違いだろうに。
理由がどうであれ値札をつけて生き死にを決めるならば同じ穴の狢だろうよ。
目あさましいやり口はお互いさまじゃないか」

 重々しくもなく、軽くもなく、ユーリアと対面した時よりもはるかに逼迫した恐怖を背中に張り付けながら語りつづける。

「ま、頭に入れておいてくれるだけでいいさ。制約の所為でここが陥落したら話にならないからね。
だが無用に五将家から反感を買う真似はしないでくれ、いま背後にいるのは五将家の私兵であり、〈皇国〉陸軍の主力なんだ」

「―どちらにせよ、〈帝国〉軍砲兵の前に貴賤もなにもない、例外はない。
それに俺も貴様も兵達の命を預かっている、それも貴様の語るそれとは違うが紛れもない現実だ」

 新城の無感情な視
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