第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#7
戦慄の侵入者U 〜Parasite Green〜
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【1】
(コイツ、は……)
確か、吉田一美という女生徒だった。
承太郎とは学年が同じというだけでクラスも違い、
特に親しかったわけでもない。
だが、かつて授業に託けて不特定多数の女生徒に
セクハラまがいの真似を働いていた陰湿な体育教師を、
授業中に学ラン姿の承太郎がふらりと現れ
そして生徒達の目の前で思いッ切りブン殴って顎を砕いた為
「停学処分」(ちなみにこの温情判決の影にはホリィの涙ぐましい内助の功が在った)
となったとき、“謹慎中全ての” 授業ノートのコピーを停学開けの自分に渡してきた。
御丁寧にもキレイな付箋つきで。
(注:不良だが承太郎の成績は常にトップクラスである)
それ以来誰のことも気にかけない承太郎だったが、
この少女の事だけは覚えていた。
オレの傍に来るな、そう言おうとしたとき、
「あ、あ、あ、あの、こ、こ、これ……」
差し出された少女の小さな手の平には、同じくその中に収まってしまうほど
小さな「包帯」が乗せられていた。
確かノートを渡された時も、こんな風に震えながら真っ赤になって俯いていた。
「あ、あ、あ、あの、わ、私、び、病弱なんで、
い、い、いつも、く、薬とか、も、持ち歩いて、るんです。
そ、そ、そ、それ、に、こ、転ぶことも、お、多いから、
ほ、包帯とか、ば、絆創膏も。さ、さっき、こ、転んで、
け、ケガしたみたい、で、ですから、よ、よ、よ、良かったら、
こ、こ、これ、お、応急手当に、つ、使って、下さい……ッ!」
「転ぶ」という表現は、些か適当ではないが。
正確には片足をナイフのようなモノでブッた斬られ、
襟首を無造作に引っ掴まれてブン投げられ、
硬い石畳の上に拉げたカエルのように叩きつけられたのだ。
どうも、自分の母親と同じく妙な所で思考のピントがズレているらしい。
「……」
承太郎は黙って少女から包帯を受け取った。
「そ、そ、そ、それ、じゃ、
お、お、お、お大事に、です」
少女は顔を真っ赤にして承太郎に一礼すると、背を向けて小走りに去っていく。
その小さな背中に、承太郎は不良の定番、凄味のある声で言った。
「待ちな!」
「ひやあっ!?」
少女は縮こまってジャンプ、という器用な真似をした。
そして、自分は何かとんでもない間違いをしてしまったんじゃないかと
涙ぐんだ表情で恐る恐る振り返る小柄な少女に、
「ありがとよ」
短くそう伝え、指先で摘んだ包帯を振った。
「……は、は、は、はい……ッ!」
言われた少女はパッと顔をほろばせた。
まるで野に咲く雛罌粟のような、見る者に安らぎを与えるそんな笑顔だった。
「……」
承太郎は剣呑な瞳のまま背を向けると、
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