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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十話 内乱への道 (その3)
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が民主共和制に触れればどうなるか……」
リヒテンラーデ侯の顔が苦渋に歪んだ。俺には侯の気持ちが分る。ヴァレンシュタインが何を言おうとしているのか、此処までくれば嫌でも想像がつく。
「彼等は当然ですが自分たちの権利の拡大を求めるでしょう。場合によっては内乱を起し、反乱軍に援助を要請する、あるいは服属を申し込むかもしれません。そうなれば和平など吹っ飛んでしまいます。意味がありません」
呻き声が彼方此方から上がった。ヴァレンシュタインの言うとおりだ。和平など意味が無い。おまけにイゼルローン要塞は向こう側にある。反乱軍は好きなときに兵を出せるだろう。つまり主導権は向こうが握る事になる。
リヒテンラーデ侯は苦渋に顔を歪め、ゲルラッハ子爵は打ちのめされたように椅子にうずくまっている。エーレンベルク、シュタインホフの両元帥、ミュッケンベルガー退役元帥は疲れたような表情をしていた。そんな中、皇帝だけが興味深げな表情でこちらを見ている。
「帝国に残された道は一つしか有りません。国内を改革し、フェザーン、反乱軍を征服する。そして宇宙を統一する唯一の星間国家、新銀河帝国を作るしかないんです」
「!」
また呻き声が彼方此方から上がった。新銀河帝国、確かにそうだ。この帝国はルドルフの作った今の帝国ではない。ヴァレンシュタインの作った新しい帝国だ。
ルドルフに出来た事なら俺にも出来ると思っていた。皇帝になり宇宙を統一する事が夢だった。簡単だとは思わなかったが不可能だとも思わなかった。だが俺は帝国を、フェザーンを、反乱軍を、ヴァレンシュタインほど理解していただろうか?
大きい、今の俺には宇宙は大きすぎるように思える。こんなにも大きかったのだろうか? ヴァレンシュタインにとっての宇宙は俺などよりはるかに小さく見えるのではないだろうか?
まだだ、まだ勝負はついていない。新帝国が成立したわけじゃない。彼が何を考えているかは判ったのだ。これから俺はどうすべきかを考えればいい。オーベルシュタイン、キルヒアイス、俺には信頼できる味方がいる。
沈黙が落ちていた。今日何度目の沈黙だろう。皆ヴァレンシュタインの言った新銀河帝国について考えているに違いない。不可能ではないだろう、しかし老人たちにとって受け入れるのは難しいのだろうか……。
「ヴァレンシュタイン、卿は酷い男じゃの。七十年以上貴族として生きた私にそれを捨てろというのか」
リヒテンラーデ侯が疲れたような表情で問いかけてきた。ヴァレンシュタインは何と答えるのだろう。
「そうです。小官は侯と戦いたくは有りません。しかしこの件で譲るつもりは有りません」
「……」
「逃げないで頂きたい。帝国が此処まで衰退したのは一部の特権階級が帝国を私物化したからです。違いますか?」
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