五十九話:Snow Rain
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こんな人間死んだ方がマシ―――」
フルスイングのビンタが切嗣に突き刺さる。あまりの威力にツヴァイが若干引いたような声を上げているが怖いのではやてには何も言わない。とばっちりを食らったアインスは納得がいかないような、主に叱られて嬉しいような複雑な声を切嗣の中で出していた。
「死んだほうがマシ? ふざけんといて!! 私はそんな人間のために十年間も頑張ってきたんやないッ!! おとんは自分を愛してくれる人の気持ちを考えたことがあるんかッ!?」
今までの想いを全てぶつけるような怒鳴り声に切嗣は何も言い返せなかった。考えたこともなかった。自分を愛してくれる人間の気持ちがここまで傷つけられているなど。自分のことしか考えない男は思いもしなかった。
「誰も救えない? 私の目を見て言ってみーや! ここに! ここにおるやろ!! 家族を失った悲しみを救って貰った人が!! おとんに―――救われた人がッ!!」
涙を流しながら声を上げるはやての姿に切嗣は信じられないといった表情をする。自分が誰かを救ったなど信じられなかった。見捨てたといっても過言ではない娘が自分のことを愛してくれていたなど信じられなかった。
「おとんは私に笑いかけてくれた。私に飛びっきりの魔法を見せてくれた。大切な家族になってくれた。私を―――愛してくれた」
それまでの大人びた態度はどこにいったのか、まるで子供に戻ったようにはやては泣きじゃくる。そんな娘の姿にオロオロとしながら切嗣は手を伸ばしてしまう。もう二度と、その温もりには触れてはならないと誓った。だが、そんな誓いなど泣きじゃくる娘を前にしては意味がなかった。
「誰がなんと言おうとおとんは私にとっての―――正義の味方やッ!!」
娘を抱きしめた温もりと様々な想いが込められた言葉に切嗣は何も答えられなかった。
頬を伝う―――ただ温かい何かがその頬を伝っていく。止めどなく流れていく何かがアインスのものなのか自分のものなのかも分からない。ただ、それが何であったとしても―――
「ああ……そうか…そうだったのか」
―――切嗣の心は救われていた。
男は正義の味方になりたかった。誰もが平和な世界が欲しかった。でも世界は残酷だった。それを知った男は機械となって引き金を引き続けてきた。その人生に後悔しなかったことはない。全てを救いたかった。しかし、全ての人を救う道は閉ざされた。
光のない夜空に見えない星を求め手を伸ばし続けてきた。きっとその人生は“無意味”なものであったのだろう。だが、それでも―――“無価値”ではなかった。
「僕は―――正義の味方になれたのか」
世界など救えない。救った数よりも殺した数のほうが多い。それでも、この手には確かに掴み取ったも
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