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消えた友
5部分:第五章
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第五章

「そうなっています。日本からあちらに行った人の多くは」
「そうですか。そうなってますか」
「よく地上の楽園、行けば何の悩みも心配もないと言われていましたが」
 このことは白川もよく知っていた。実際にそう書かれていた新聞や雑誌を散々読んできたからだ。そのことは忘れられる筈がなかった。決して。
「実際はその逆でした」
「この世の地獄でしたか」
「私の知人も北に行ったのですが」
 在日のその人もだ。苦々しい顔で語る。
「しかし行方は知れません」
「では」
「おそらくは」
 殺されたと。こう白川に述べたのだった。
「そうなりました」
「そうですか」
 それでは金もだとだ。白川は思った。そしてだ。
 彼のその話を聞いてだ。また悲しい顔になり言ったのだった。
「殺されたのですか」
「多くの人がそうなりました」
 金もその中にいるのだろうと。白川は思った。そうしてだ。
 その悲しい顔でだ。ある日だ。
 実家に戻ったその時にだ。彼は家族を実家に置いて一人夕暮れの道を歩いた。かつて金と二人で歩いた道だ。その道を一人で歩いたのだ。
 道はあの頃とは全く違っていた。舗装され周りの家も立派になっている。電柱も木からコンクリートのものになっている。あの頃とは全くだった。
 だが彼はあの頃に戻っていた。そしてだ。
 歩きながら金のことを思い出した。その目には彼がいた。
 彼は笑顔で北朝鮮に行くことを話してきている。そして最後に。
 再会を約束してだ。満面の笑みを彼に向けた。だが。
 その笑顔は消えて後には何も残っていなかった。変わってしまった街並は今は目に入らない。
 彼の姿が消えてそれでだ。白川は。
 そこではじめて泣いた。遂に孫もでき定年も近付く中でだ。
 その歳になってだ。友のことを思って泣いた。おそらくもう生きてはいない彼のことを思って。一人で道に立ち止まって横に身体を向けてだ。そして泣いたのだ。
 それからだ。彼はだ。
 同居している孫達にだ。よくこう言う様になった。
「新聞や雑誌には気をつけるんだぞ」
「新聞とかに?」
「どうしてなの?」
「嘘を書くからだ」
 厳しく、そして悲しい顔でだ。彼は孫達に話すのだった。
「だから気をつけろ。迂闊に信じるとな」
「信じたらどうなるの?」
「それで」
「地獄に落ちるぞ」
 そうなるとだ。彼は話すのだった。
「本当にな。それにかけがえのないものが消えるからな」
「かけがえのないものって?」
「それが消えるって?」
「どういうことなの?」
「騙されて。あの国に行って」
 彼のことを思ってだ。白川は遠い目になって言った。
「そして二度と帰ってこれなくなるからな」
「あの国って何処?」
「どの国なの?」
「ああ。その国はな」

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