19話
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段の声よりもやや小さい鬼一の声。それだけでもかなりの疲れが見て取れた。出来ることならすぐにでも休みたいのだろう。
「なんとなく、鈴さんが考えていることは分かります。何度もそういう顔をした人間を見たことがありますよ。昔、僕もそういう顔をしたことがありましたし」
本来、話すことすらも辛いはずの鬼一は疲労を感じさせないような声色で喋り始める。その声色に反して顔色は決して優れたものではなく、感情の感じさせない表情であるためか、より顔色の悪さが強調されていた。
「……多分、どこかで自分を曲げて攻勢に出れなかったことを後悔しているんじゃないでしょうか? 鈴さんも僕も本質的には攻めて勝つ操縦者です。だけど、この結果が全てです」
自分を曲げるのは確かに怖い。鬼一だってそれは否定しない。だけど、曲げると日和るのはまた違うのだ。自分を曲げて勝ったということなら自分の何かが最善策を選んだに過ぎない。それなら結果だけを見ればいいと鬼一は伝える。過程と結果の両方を取れないなら結果だけを取るのは悪いことではないと。
「僕はあなたに守りに入られたくないために心を砕いていましたが、最後の最後で詰めを誤った。ただ、それだけの試合ですよこれは」
結局の所はそれに尽きる。鬼一の攻撃力が最終的な鈴の守備力を上回れなかっただけの試合。鬼一は最後で鈴に対する詰めを誤り自滅した。
「鈴さん、あなたはある意味で負けたと思っているみたいですが、一夏さんに教えないといけないのはこういうことかもしれませんよ?」
そこで初めて鬼一は笑った。だが、その笑顔は疲れているものだった。
「守る、というのは本人が思っている以上に辛いことばかりです。手段を選んでいる場合じゃない方が非常に多い。時には自分の矜持と誇りを投げ打ってでも、泥水を被り舐めるような行為に耐えなければなりません」
自分の指を失ってでも1つの世界にしがみつき、たった1つのことで生きる世界を無理やり変えられた少年は淡々と語る。
「一夏さんは僕たちとは比べ物にもならないほど険しい道を歩こうとしています。一夏さんは果たして、その覚悟があるのでしょうか? 自分の全てを賭けてでも届かないかもしれないその恐怖に。数多の天才たちが全てを差し出しても届かなかったその領域に足を踏み入れる覚悟を。そして、数多くの選択をすることを。その上で諦めることや戦い続けなきゃいけない」
「……」
その鬼一に鈴はなんて答えるべきか分からなかった。
「……なんか、また何か考え事ですか? でしたら伝えることは伝えておきますね。
鈴さん、織斑先生には伝えておきますのでクラス対抗戦以降の一夏さんの指導をお願いします」
「……はっ?」
鬼一の予想外の言葉に思わず間の抜けた声を出してし
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